Archive for the ‘research’ Category

アムール川がオホーツク海に輸送する溶存鉄の供給源として、永久凍土をもつ湿地が重要であり、気候変動によって永久凍土が変化することによって河川に流出する鉄も変化する可能性があることを現地での観測から見出し、論文として出版しました。

Tashiro, Y., Yoh, M., Shesterkin, V.P., Shiraiwa, T., Onishi, T. and Naito, D. (2023) Permafrost wetlands are sources of dissolved iron and dissolved organic carbon to the Amur-mid rivers in summer. Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 128, e2023JG007481. https://doi.org/10.1029/2023JG007481

どう変化するかを更に突き止めようと、新たな調査計画を練っている時に、コロナ禍が始まり、更にはロシアのウクライナ侵攻が起きました。当面、ロシアでの現地調査は無理と判断し、代替地として季節凍土が発達する北海道の湿地に目をつけ、民間企業の保有する道北の湿地を実験地として使わせていただけることになり、この一週間、岐阜大学と名古屋大学の研究者と共に湿原を掘削し、4本の井戸を設置しました。これから数年にわたり、これらの井戸の地下水と河川水を定期的に採取して、積雪や凍結が溶存鉄流出に及ぼす影響を調べます。

丸山湿原

今年度から環境科学院環境起学専攻の修士1年生としてセンターの活動に参加して修士研究を開始した雫田さんの最初の野外観測として、道東の別寒辺牛川流域を訪ねました。過疎化が進む中山間地の活性化に興味を持っている雫田さんが模索するテーマは、河川における懸濁物質の挙動です。今回は最初の調査ということもあり、マルチ水質計(YSI Pro DSS)を使用して、流域の広範囲にわたって降雨後の濁度、pH、溶存酸素濃度、電気伝導度、水温等の測定を実施し、湿原河川の懸濁物質研究の焦点を絞るための基礎データを収集しました。天気に恵まれ、参加者は初夏の湿原を満喫できました。観測にあたっては、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所(所長 仲岡雅裕教授)と厚岸水鳥観察館にお世話になりました。記して感謝申し上げます。

別寒辺牛川

6月13日から20日にかけて、大学院生の西川穂波、伊原希望、小林工真、坂口大晴の各氏と共に、知床半島先端部の漂着物調査を実施しました。知床岬は、ルシャ地区と並んで漂着物の多い地域と過去の研究で報告されています。オホーツク総合振興局から港湾使用の許可を得て、半島先端部にある文吉湾に上陸し、半島のオホーツク海側の海岸を広域にわたってドローンで写真測量すると共に、啓吉湾の海岸で漂着物を計量しました。調査にご協力いただきましたNPO法人知床自然学校、知床財団ならびに晃洋丸の菊池船長に感謝申し上げます。

羊蹄山気温ポール

2021年秋から継続している永久凍土探査を目的とした羊蹄山山頂部における気温・地温観測を継続すべく、冬の間にダメージを受けた計測器のメンテナンスとデータ回収を目的に羊蹄山に登りました。例年より早いペースで雪融けが進んだようで、倶知安から山頂に至る登山道は7合目まではすでに雪がなく、7合目から9合目にかけての区間だけが雪面の登高でした。山頂部の気温タワーは予想通り、冬期の着雪によって倒壊していたため、新しいポールとシェルターで補修し、観測を継続しています。悪化する天候に伴う烈風の山頂での作業は厳しいものでしたが、山頂での気温・地温観測を継続すべく、今後も定期的にメンテナンスを行っていきます。

羊蹄山気温ポール

今年に入ってから2回目の海岸漂着ごみ調査を知床で行いました。秋晴れに恵まれ、大学院生の西川穂波さんと伊原希望さんと一緒に秋の知床の海岸を歩き、二日間の現地調査によって予定していた調査内容を全て実施することができました。ご協力いただきました知床財団には感謝申し上げます。

今回の調査の目的は、ルシャ海岸に堆積した漂着ごみの堆積・流出による変化をドローンによるSfM多視点ステレオ写真測量によって解析するため、ポンベツ川の左岸と右岸に広がる約2kmの長さの海岸の空中写真測量を実施することでした。また、3ケ所に設置したタイムラプスカメラのデータ回収と越冬観測のためのメンテナンスを行いました。そして、今年の6月に試験的に漂着ごみを撤去した区画において、夏季にどれだけの漂着ごみが堆積したかを計量しました。

調査・観測の結果は、来春に行われる日本地理学会において公表予定です。

なお、本研究の実施にあたっては、環境研究総合推進費による課題「世界自然遺産・知床をはじめとするオホーツク海南部海域の海氷・海洋変動予測と海洋生態系への気候変動リスク評価(代表 三寺史夫)」を使用させていただきました。

知床海岸20221021

 8月27日から9月10日にかけての2週間、スイスにおいて大学院生を対象とした氷河実習を行いました。この実習は、北海道大学大学院 環境科学院の国際南極大学カリキュラムのひとつに位置付けられたものです。過去の活動はこちらでご覧ください。
 コロナ禍で2020年と2021年の開催が中止となっていたため、2019年に実施して以来、3年ぶりの実施となりました。杉山慎教授をリーダーとして、私と大学院生6名に加え、スイス連邦工科大学に留学中の日本人大学院生が1名加わり、合計9名での実習となりました。
 実習は5つのプログラムから構成されています。1)スイス連邦工科大学において氷河に関する講義を受講; 2)ベルナーオーバーラントで下グリンデルワルド氷河とアレッチ氷河の観察、ならびにユングフラウヨッホ高地観測所訪問; 3)ローヌ氷河における氷河・気象・水文観測実習; 4)ゴルナーグラートからのポリサーマル氷河の観察; 5)観測結果の報告ならびにスイス連邦工科大学における氷河と気候に関する講義受講。
 例年にも増して良い天気に恵まれ、参加者はスイスの氷河、山、生活を満喫できたと思います。2022年は小雪と例年にない酷暑により、氷河は更に後退したもようです。温暖化は、スイスの氷河や永久凍土の分布に大きく影響しているようです。

アポイ岳

週末毎に大学院生のフィールドを順番に巡っているうちに、すっかり夏も後半となり、暦の上では立秋となってしまいました。現在、当研究室の大学院生が進めている研究の調査地は、海岸(2名)、湿原河川(3名)、山(2名)、モデル(2名)となっており、必然的に山に行く機会は限られてしまいます。コロナウィルスの蔓延で2年間中止していたスイス実習を今月末に再開することになり、月末から引率教員の1人としてスイス・アルプスに出かけることになりました。湿原や川などの調査ばかりで、すっかり鈍ってしまった足腰でアルプスに出かけると、参加する大学院生に申し訳ないので、この週末はトレーニングと趣味を兼ねて、日高山脈の最南端にあるアポイ岳に出かけました。標高810.5mの低山ですが、幌満かんらん岩体でできた特殊な山で、マグネシウムやニッケルに富み、カルシウムやリンが欠乏するという岩質が作り出す土壌によって、特異な植生が見られることで有名です。

札幌から登山の起点となる様似まではなかなか遠く、4時半に札幌を出て、様似にある登山口に到着したのは8時でした。さっそく登山の準備を始め、登山口にある入山記録簿に名前を書いて出発します。キタゴヨウとアカエゾマツの針葉樹林の中のゆるやかな道を辿っていくと、1合目、2合目という里程と共に、たくさんの案内板が登場します。この山は、ジオパークにも登録されているので、案内板を読みながらいろいろ勉強させてもらいます。不思議なのは、北海道のどこにでもある笹がこの森林の林床にもありますが、背丈が低く、膝くらいの高さまでしかありません。これも超塩基性岩の影響なのか、それとも冬の雪が少ないためでしょうか。

5合目にある避難小屋までは休憩なしでゆっくり登り、ここからは森林限界を抜けた素晴らしい景色を堪能しながらの登山となります。足元には、ハイマツと高山植物の花が目を楽しませてくれます。また、眼下に見える太平洋と海岸線も、なぜか見慣れぬ感じで面白いと思いました。登山道は傾斜を増し、かんらん岩の表面が風化したオレンジ色の岩石が剥き出しになった登山道をゆっくりと進みます。途中、かんらん岩からはんれい岩に移行する場所もあり、地質による風化に対する耐性が地形を決めている現場も見ることができました。

これまで登ってきた周囲に開けたハイマツ帯から、突然ダケカンバに覆われた見晴らしの悪い場所に変わると、そこが山頂でした。山のてっぺんは風が強く、ここだけダケカンバが生えているのは不思議です。山頂でゆっくりお弁当を食べようと思ったのですが、コバエのような虫が柱を作って飛んでおり、写真をそそくさと撮って下山しました。同じ道を帰っても面白くないので、帰りは、旧幌満お花畑経由の下山です。

登山口に戻ったのが、12時ちょっと前。せっかくなので、ジオパークのビジターセンターで展示を見せてもらいました。なかなか立派な展示で、幌満かんらん岩体の成り立ちや超塩基性植生のことを勉強することができました。この後、ビジターセンターの近くにあるアポイ山荘で汗を流し、帰路につきました。

アポイ岳

ベルモントフォーラムプロジェクト “Abandonment and rebound: Societal views on landscape- and land-use change and their impacts on water and soils (ABRESO) (PI: Tim White)”の枠組みでアメリカのニューハンプシャー大学から、大学院生のEric Parkerさんが来日しました。彼の地にあるLamprey川流域の物質循環を調べているEricさんのミッションは、同サイズの流域面積、同様な土地被覆・土地利用をもつ道東の別寒辺牛川で観測を行い、両流域を比較することです。どちらも人口減少を抱える地域で、開発とはベクトルの向きが反対の人為的影響が流域の水・物質循環に与える影響を考えるのが、冒頭に記したABRESOプロジェクトのテーマです。

3週間の滞在の最初になる7月28-30日は、北大 北方生物圏フィールド科学センターの柴田英昭教授と二人で、我々の観測点や採水地点を案内させていただきました。帰国までの3週間、環オホーツク観測研究センターのメンバーもサポートを兼ねて一緒に調査を行い、日米の共同研究を成功させたいと思います。

毎度のことながら、別寒辺牛川の調査に際しては、厚岸臨海実験所の皆様にお世話になりました。記してお礼申し上げます。

別寒辺牛川

本研究室は観測を中心とした研究方法を得意としていますが、現在所属する大学院生の2名はモデル構築に取り組んでいます。その1人、修士1年生の梅津晴希さんは、サロベツ湿原の水・熱収支モデルの構築を修士論文研究のテーマとしています。よりよいモデルを構築すべく、7月23-25日の三日間、サロベツ湿原の現地視察に出かけました。23日は、サロベツ湿原の熱収支モデル構築に取り組んできた北海道大学 北方生物圏フィールド科学センターの高木健太郎教授を訪ね、3時間あまりにわたって湿原の熱収支モデルについてご教示を賜りました。24日は、上サロベツと下サロベツで過去に水・熱収支の観測が行われた実験地を訪ね、植生や地下水の状況などの観察を行いました。この地では、過去にさまざまな先行研究が行われていますが、それらの論文の記述に比べると、当時高層湿原だったところには、さまざまな植物が侵入し、ミズゴケからなる高層湿原の特徴を徐々に失っているような印象を受けました。

今回の調査は天気に恵まれず、終始曇天続きだったため、楽しみにしていた湿原の背後に聳える利尻岳の勇姿を拝むことは叶いませんでした。湿原に秋が訪れたら、再び再訪したいという思いと共に、この大地を後にしました。

サロベツ原野

写真:下サロベツの幌延ビジターセンターの展望台から見たサロベツ原野。過去にさまざまな土地利用変化を被ってきたサロベツ湿原では、牧草地、湿原、乾燥化して笹が侵入した湿原などのモザイクがみられます

S. Fukumoto, S. Sugiyama, S. Hata, J. Saito, T. Shiraiwa and H. Mitsudera (2022) Glacier mass change on the Kamchatka Peninsula, Russia, from 2000 to 2016, Journal of Glaciology, pp. 1 – 14
DOI: https://doi.org/10.1017/jog.2022.50