Archive for the ‘research’ Category

当研究室の主要な調査地である道東の別寒辺牛川に大学院生と出かけました。1人はこの川で懸濁物質の挙動を調べている修士2年の学生です。もう2人は、この4月に環境科学院に入学した修士1年生でした。この川では、すでに過去6年間にわたって河川水の流出特性、溶存・懸濁態シリカ濃度、有色溶存有機炭素(CDOM)濃度などの観測を行っており、これらの物質の動態と厚岸湖との間での流出入を調べることが大きな目標となっています。3月初旬に観測を実施した際には、まだ積雪が残っており、林道を用いた採水地点の移動に苦労したようですが、今回は積雪も消え、ぬかるんだ林道にタイヤをとられてヒヤヒヤしたものの、晴天に恵まれて順調に観測を行うことができました。初めて使用するクロロフィルa濁度計のデータと合わせて、懸濁物質濃度やCDOM濃度のデータを解析することが当面の課題ですので、頑張って分析・解析を進めてもらいます。今回も北海道大学の厚岸臨海実験所ならびみ厚岸水鳥観察館の皆様にはお世話になりました。また、国立環境研究所の中田聡史博士には、観測機器の貸与などでたいへんお世話になりました。これらの方々に記してお礼申し上げます。

別寒辺牛川

令和6年度が始まりました。今年は5人の修士1年生が当研究室に加わりました。今年度第1回目のセミナーを終了した後、集合写真を撮りました。当研究室の現在の大学院生数は、博士課程が3名、修士課程が8名です。

今年は4つの研究テーマに沿って研究と教育を行います。これらのテーマを貫くキーワードは「陸と海をつなぐ地理学」です。

1. 別寒辺牛川から厚岸湖への水・物質流出
2. 猿払川の湿原における河川水形成
3. 知床半島の海洋・海岸漂着ごみ
4. 気候変動が山岳永久凍土に及ぼす影響

このうち3番目の知床半島の研究に関しては、科学研究費 基盤研究(C)「自然保護区の海岸に分布する漂着ごみ問題の解決に向けた学際的研究」(研究代表者 白岩)が採択されましたので、令和6年度から3ケ年にわたって、研究分担者の京都大学法学研究科教授の島村健さんや大学院生の皆さんと一緒に研究を進めます。

今年はフィールドでどんな驚きや発見が待っているのか? 事故や怪我のないよう安全に最大限の注意を払って、研究を進めて参ります。

グループフォト

3月上旬に観測地を訪ねた際に切断されていた地温計のケーブルを交換するために、3月30日に再び猿払川中流の湿原をひとりで訪ねました。今回は徒歩での訪問。雪に覆われた林道をおよそ6km歩いて、観測地に到着。積雪上には冬眠から目覚めたヒグマの足跡が残っておりました。前回は1mほどあった積雪も、この1ケ月で40cmほどに減っており、交換のために持参した地温センサーを無事に設置することができました。
 3月初旬に訪ねた際には、まだ厚い積雪に覆われて川面の見えなかった猿払川も、中心部に凍結部を残して両岸付近では融解水が流れ始めていました。長い冬から目覚めた猿払川。これから初夏にかけて、イトウが遡り、本流・支流の各所で産卵が始まります。次の観測は5月上旬です。

猿払川

昨年から観測を行っている道北の湿原を訪ねました。この時期、湿原に隣接する道路は閉鎖されているため、アクセスは徒歩かスノーモービルとなります。観測に必要な機材を徒歩で運ぶことは難しく、今回は地元の方にお願いしてスノーモービルを使用しました。到着した湿原はおおよそ1mの積雪に覆われていましたが、幸い、我々が設置した4本の井戸は頭を10cmほど積雪から出しており、すぐに位置を確認することができました。さっそく井戸から地下水を採取しました。地温計を掘り出してみると、残念ながら8本のセンサーのうち、5本のセンサーケーブルが切断していました。記録を見ると、2月中旬に切断が生じたようです。おそらくは2月中旬の暖気によって急速に融雪が進み、その際、データロガーを保管しているクーラーボックスが転倒し、これによってケーブルに大きな力がかかって破断したものと思われます。幸い、昨秋からの連続データは保管されていましたので、冬季の湿原内部の温度分布を観測することに成功しました。今は、できるだけ早く観測地を再訪し、地温計の再設置を行うべく準備を進めているところです。

道北湿原

アムール川がオホーツク海に輸送する溶存鉄の供給源として、永久凍土をもつ湿地が重要であり、気候変動によって永久凍土が変化することによって河川に流出する鉄も変化する可能性があることを現地での観測から見出し、論文として出版しました。

Tashiro, Y., Yoh, M., Shesterkin, V.P., Shiraiwa, T., Onishi, T. and Naito, D. (2023) Permafrost wetlands are sources of dissolved iron and dissolved organic carbon to the Amur-mid rivers in summer. Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 128, e2023JG007481. https://doi.org/10.1029/2023JG007481

どう変化するかを更に突き止めようと、新たな調査計画を練っている時に、コロナ禍が始まり、更にはロシアのウクライナ侵攻が起きました。当面、ロシアでの現地調査は無理と判断し、代替地として季節凍土が発達する北海道の湿地に目をつけ、民間企業の保有する道北の湿地を実験地として使わせていただけることになり、この一週間、岐阜大学と名古屋大学の研究者と共に湿原を掘削し、4本の井戸を設置しました。これから数年にわたり、これらの井戸の地下水と河川水を定期的に採取して、積雪や凍結が溶存鉄流出に及ぼす影響を調べます。

丸山湿原

今年度から環境科学院環境起学専攻の修士1年生としてセンターの活動に参加して修士研究を開始した雫田さんの最初の野外観測として、道東の別寒辺牛川流域を訪ねました。過疎化が進む中山間地の活性化に興味を持っている雫田さんが模索するテーマは、河川における懸濁物質の挙動です。今回は最初の調査ということもあり、マルチ水質計(YSI Pro DSS)を使用して、流域の広範囲にわたって降雨後の濁度、pH、溶存酸素濃度、電気伝導度、水温等の測定を実施し、湿原河川の懸濁物質研究の焦点を絞るための基礎データを収集しました。天気に恵まれ、参加者は初夏の湿原を満喫できました。観測にあたっては、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所(所長 仲岡雅裕教授)と厚岸水鳥観察館にお世話になりました。記して感謝申し上げます。

別寒辺牛川

6月13日から20日にかけて、大学院生の西川穂波、伊原希望、小林工真、坂口大晴の各氏と共に、知床半島先端部の漂着物調査を実施しました。知床岬は、ルシャ地区と並んで漂着物の多い地域と過去の研究で報告されています。オホーツク総合振興局から港湾使用の許可を得て、半島先端部にある文吉湾に上陸し、半島のオホーツク海側の海岸を広域にわたってドローンで写真測量すると共に、啓吉湾の海岸で漂着物を計量しました。調査にご協力いただきましたNPO法人知床自然学校、知床財団ならびに晃洋丸の菊池船長に感謝申し上げます。

羊蹄山気温ポール

2021年秋から継続している永久凍土探査を目的とした羊蹄山山頂部における気温・地温観測を継続すべく、冬の間にダメージを受けた計測器のメンテナンスとデータ回収を目的に羊蹄山に登りました。例年より早いペースで雪融けが進んだようで、倶知安から山頂に至る登山道は7合目まではすでに雪がなく、7合目から9合目にかけての区間だけが雪面の登高でした。山頂部の気温タワーは予想通り、冬期の着雪によって倒壊していたため、新しいポールとシェルターで補修し、観測を継続しています。悪化する天候に伴う烈風の山頂での作業は厳しいものでしたが、山頂での気温・地温観測を継続すべく、今後も定期的にメンテナンスを行っていきます。

羊蹄山気温ポール

今年に入ってから2回目の海岸漂着ごみ調査を知床で行いました。秋晴れに恵まれ、大学院生の西川穂波さんと伊原希望さんと一緒に秋の知床の海岸を歩き、二日間の現地調査によって予定していた調査内容を全て実施することができました。ご協力いただきました知床財団には感謝申し上げます。

今回の調査の目的は、ルシャ海岸に堆積した漂着ごみの堆積・流出による変化をドローンによるSfM多視点ステレオ写真測量によって解析するため、ポンベツ川の左岸と右岸に広がる約2kmの長さの海岸の空中写真測量を実施することでした。また、3ケ所に設置したタイムラプスカメラのデータ回収と越冬観測のためのメンテナンスを行いました。そして、今年の6月に試験的に漂着ごみを撤去した区画において、夏季にどれだけの漂着ごみが堆積したかを計量しました。

調査・観測の結果は、来春に行われる日本地理学会において公表予定です。

なお、本研究の実施にあたっては、環境研究総合推進費による課題「世界自然遺産・知床をはじめとするオホーツク海南部海域の海氷・海洋変動予測と海洋生態系への気候変動リスク評価(代表 三寺史夫)」を使用させていただきました。

知床海岸20221021

 8月27日から9月10日にかけての2週間、スイスにおいて大学院生を対象とした氷河実習を行いました。この実習は、北海道大学大学院 環境科学院の国際南極大学カリキュラムのひとつに位置付けられたものです。過去の活動はこちらでご覧ください。
 コロナ禍で2020年と2021年の開催が中止となっていたため、2019年に実施して以来、3年ぶりの実施となりました。杉山慎教授をリーダーとして、私と大学院生6名に加え、スイス連邦工科大学に留学中の日本人大学院生が1名加わり、合計9名での実習となりました。
 実習は5つのプログラムから構成されています。1)スイス連邦工科大学において氷河に関する講義を受講; 2)ベルナーオーバーラントで下グリンデルワルド氷河とアレッチ氷河の観察、ならびにユングフラウヨッホ高地観測所訪問; 3)ローヌ氷河における氷河・気象・水文観測実習; 4)ゴルナーグラートからのポリサーマル氷河の観察; 5)観測結果の報告ならびにスイス連邦工科大学における氷河と気候に関する講義受講。
 例年にも増して良い天気に恵まれ、参加者はスイスの氷河、山、生活を満喫できたと思います。2022年は小雪と例年にない酷暑により、氷河は更に後退したもようです。温暖化は、スイスの氷河や永久凍土の分布に大きく影響しているようです。

アポイ岳