今年も、北海道大学大学院 環境科学院の国際南極大学カリキュラムのひとつに位置付けられているスイス氷河実習に引率教員として参加させていただきました。
 杉山慎教授をリーダーに、私と大学院生8名の総勢10名が8月24日から9月7日にかけて、)スイス連邦工科大学における氷河に関する講義受講; 2)ベルナーオーバーラントでの下グリンデルワルド氷河とアレッチ氷河の観察、ならびにユングフラウヨッホ高地観測所訪問; 3)ローヌ氷河における氷河・気象・水文観測実習; 4)ゴルナーグラートからのポリサーマル氷河の観察; 5)観測結果の報告ならびにスイス連邦工科大学における氷河と気候に関する講義受講、という5つのプログラムをこなしました。
 過去1番の好天に恵まれ、全期間を通じてスイス・アルプスの雄大な景色を堪能することができました。大学院生も、スイスの氷河、山、スイス連邦工科大学でのキャンパスライフなどを満喫できたと思います。2023年に引き続き、氷河は後退を続けています。

ゴルナーグラート

2024年11月20日にさっぽろ市民カレッジ2024秋期 ちえりあ学習ボランティア企画講座 水の惑星にすむ私たちの生きかたにおいて、「水がつなぐ森里海連環〜水による物質の循環〜」という演題でお話させていただきます。お近くの方は聴きに来てください。

日時:11月20日 14:00-16:00
場所:札幌市生涯学習センター
詳細はこちらをご覧ください。

lecture

新しく始まる研究プロジェクトの準備で、一昨年から予察的な観測を行なっている道北の猿払川を訪ねました。湿原河川は流出する海洋沿岸域の基礎生産にどのような貢献をしているのか?という興味から、猿払川ではこれまで溶存鉄や栄養塩濃度の観測を行なってきましたが、このプロジェクトでは、これらの陸域起源の物質の貢献をより定量的に見積もることを試みます。まず手始めに、湿原と河川との間での表層水・土壌水・地下水を通じた物質輸送を明らかにすべく、中流域の小さな湿原に着目し、昨年から観測を始めました。今後は、この観測を流域全体に拡張し、湿原流域が河川流出を通じて海洋沿岸域の基礎生産に果たす役割を解明したいと思っています。
 今回の観測には修士課程1年の澤田隼輔さんと岩堀佑さんが参加しました。これから進める修士研究に向け、まずは流域全体の観察と水質観測、およびドローンを用いた対象湿原の空中写真撮影を実施しました。現地観測にあたっては、入林許可を下さった王子木材緑化株式会社、道道上猿払浅茅野線の通行許可をくださった稚内建設管理部、そして滞在でお世話いただいた笠井旅館に感謝申し上げます。

湿原20240720

 2024年6月下旬に調査許可をいただいて知床岬周辺の海岸に堆積する漂着ごみと、その沿岸海底に堆積する海底ごみの探査を目的に、知床に出かけてきました。今回は、博士課程の西川と伊原、修士課程の小林と坂口が同行メンバーです。それぞれ、テーマを持って知床半島を舞台に博士研究と修士研究に取り組んでいる当研究室のメンバーです。
 知床岬は知床国立公園の特別保護地区に位置しており、徒歩による入域を除き、立ち入りや宿泊が禁じられています。今回は近接する避難港である文吉湾への入港を許可していただき、漁船をチャーターして上陸しました。滞在中は、オコツク漁業生産組合のご厚意で、文吉湾の番屋の倉庫をお借りして調査拠点としました。
 調査内容は、文吉湾から知床岬にかけての海岸をドローンで空撮し、漂着ごみの分布状況を調べることを第1の目的とし、これに付随して、昨年、詳細な調査を行った啓吉湾の漂着ごみの計量を実施しました。また、今回初めての試みとして、カシュニの番屋から知床岬にかけての数地点において、浅海底に堆積したごみの様子を水中ドローンで撮影しました。また、これらの海岸に点在する漁業小屋である番屋の現状を調べる調査も実施しました。
 滞在中はこれ以上ないほどの晴天に恵まれ、参加者全員がこの素晴らしい自然に感動するとともに、次世代にこのままの形で引き渡したいという思いを強く持ちました。本調査を実施するにあたり、漁船を運行していただいた第十八晃洋丸の菊池船長、我々の活動と野外での安全をサポートしてくださった知床アウトドアガイドセンターの関口さんご一家には心より感謝申し上げます。

知床岬2024

今年も知床半島の雪が融けて入域できるようになったので、2019年からモニタリングを継続している海岸に大学院生3人と出かけました。今年は漂着ごみに加え、海底に堆積したごみを探査するための科学研究費が採択されたため、水中ドローンを用いる調査も開始しました。京都大学からは、環境法をご専門とされる共同研究者の島村教授にご参加いただき、自然保護区内の海岸漂着ごみの処理について検討していただきました。
 2日間の短期間ではありましたが、天気に恵まれ、予定していたモニタリングと海中のごみ探査は完了しました。次は6月下旬の船舶を用いた半島先端部での調査となります。今回も知床アウトドアガイドセンターの関口さんご一家にはたいへんお世話になりました。また、無線機を貸与してくださった知床財団、林道を使用させてくださったオホーツク総合振興局網走建設管理部と北海道森林管理局知床森林生態系保全センターにも感謝申し上げます。

ルシャ海中

潮汐の影響をうける低平な湿原河川において、橋のない下流部で洪水時に流量を正確に測定する方法を考えています。今回は、UAV(いわゆるドローン)を用いて、河川上空の1点から河川表面を一定時間連続撮影し、画像の時系列データから表面の流速を測定することを試みました。初日は風が強く、河川表面に風による波が立ったため、画像から流速を判読するのは困難な印象を持ちました。二日目は風も止み、上空からの映像に河川を流下する不均質な濁りのパターンが見えたので、これを利用して画像マッチングの技術で河川の流速を見積もることができそうでした。

短時間の間にADCP、電気伝導度計、クロロフィル濃度計、濁度計などを設置する慌ただしい観測でしたが、得られたデータの解析を行い、次回の観測につなげたいと思います。今回は研究室の雫田さん(M2)と川野さん(M1)の修士研究としての観測でした。北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所、および厚岸水鳥観察館の皆さんには今回も大変お世話になりました。記して感謝いたします。

別寒辺牛川空撮

2024年6月22日に環境スポーツイベント SEA TO SUMMIT オホーツクで「オホーツク海と川・森・山のつながり」という演題でお話させていただきます。オホーツク海とカムチャツカ半島の山々、オホーツク海とアムール川、そしてオホーツク海と北海道の大地を題材に森里海連環の大切さをお話したいと思っています。お近くの方は聴きに来てください。

日時:6月22日 15:00-
場所:網走市 オホーツク・文化交流センター
詳細はこちらをご覧ください。

SEATOSUMMIT

白岩孝行・倉野健人・藤島洸・夏目奏・高宮良樹・張健・郭銘玉・牛潤華 (2024)北海道の河川における河川水中の溶存鉄濃度の分布. 低温科学, 82, 83-91, doi:10.14943/lowtemsci.82.83.

当研究室の主要な調査地である道東の別寒辺牛川に大学院生と出かけました。1人はこの川で懸濁物質の挙動を調べている修士2年の学生です。もう2人は、この4月に環境科学院に入学した修士1年生でした。この川では、すでに過去6年間にわたって河川水の流出特性、溶存・懸濁態シリカ濃度、有色溶存有機炭素(CDOM)濃度などの観測を行っており、これらの物質の動態と厚岸湖との間での流出入を調べることが大きな目標となっています。3月初旬に観測を実施した際には、まだ積雪が残っており、林道を用いた採水地点の移動に苦労したようですが、今回は積雪も消え、ぬかるんだ林道にタイヤをとられてヒヤヒヤしたものの、晴天に恵まれて順調に観測を行うことができました。初めて使用するクロロフィルa濁度計のデータと合わせて、懸濁物質濃度やCDOM濃度のデータを解析することが当面の課題ですので、頑張って分析・解析を進めてもらいます。今回も北海道大学の厚岸臨海実験所ならびみ厚岸水鳥観察館の皆様にはお世話になりました。また、国立環境研究所の中田聡史博士には、観測機器の貸与などでたいへんお世話になりました。これらの方々に記してお礼申し上げます。

別寒辺牛川

令和6年度が始まりました。今年は5人の修士1年生が当研究室に加わりました。今年度第1回目のセミナーを終了した後、集合写真を撮りました。当研究室の現在の大学院生数は、博士課程が3名、修士課程が8名です。

今年は4つの研究テーマに沿って研究と教育を行います。これらのテーマを貫くキーワードは「陸と海をつなぐ地理学」です。

1. 別寒辺牛川から厚岸湖への水・物質流出
2. 猿払川の湿原における河川水形成
3. 知床半島の海洋・海岸漂着ごみ
4. 気候変動が山岳永久凍土に及ぼす影響

このうち3番目の知床半島の研究に関しては、科学研究費 基盤研究(C)「自然保護区の海岸に分布する漂着ごみ問題の解決に向けた学際的研究」(研究代表者 白岩)が採択されましたので、令和6年度から3ケ年にわたって、研究分担者の京都大学法学研究科教授の島村健さんや大学院生の皆さんと一緒に研究を進めます。

今年はフィールドでどんな驚きや発見が待っているのか? 事故や怪我のないよう安全に最大限の注意を払って、研究を進めて参ります。

グループフォト