北海道の永久凍土の分布とその動向を調べる一環として、低山の岩塊斜面に付随して発達する風穴と呼ばれる局所的な凍土を調べ始める研究を始めました。この課題に取り組むのは、環境科学院環境起学専攻の修士1年に在学する劉俊男さんです。5月の予察調査時には、手稲山の南斜面に発達する岩塊斜面の麓にある風穴の多くは積雪の下でした。7月になって積雪も無くなったので、今回はドローンを用いて風穴の冷気を熱赤外センサーで捉えることを試みました。
7月11日、曇天の中を劉さんのサポートとして調査に参加してくれた2人の大学院生と一緒に岩塊斜面への登山道を辿ります。この時期の札幌は本来ならば湿度の低い爽やかな天気に恵まれるのですが、今年は梅雨のような天候が続き、当日も湿度の高い蒸し暑い状況でした。それでも前半の登山道は琴似発寒川の清流に沿って続くため、沢の冷水で身体を冷やしながら登ります。琴似発寒川から離れると、登山道は急な尾根を辿るようになり、暑さが身体に堪えます。頑張って登ると、やがて傾斜が緩やかになり、ひんやりした空気が漂ってきます。この冷気は、風穴から噴き出るものだと思います。
いつ雨が降り出してもおかしくないような天気だったので、早速ドローンの支度にかかります。今回持参したドローンは、D J I社のMatrice 300RTKで、搭載するカメラはZenmuse H20Tと呼ばれる熱赤外センサーをもつカメラです。広角、ズーム、熱赤外イメージを同時に撮影できるので、風穴とその周辺の地形や植生との関係を捉えるには適したカメラです。比較的大きな機体なので、持ち上げるには苦労しますが、バッテリー容量が大きいため、長いフライトも可能なため、調査には有効な機材です。基準点に設置したG N S Sとの同時運用によって、リアルタイムキネマティックの測位ができるため、繰り返し撮影を行う際にも変化を正確に位置付けることが可能です。
残念なことに、セッティングが終了すると共に雨が降り出しました。大雨ではありませんが、防水された機材ではないので、計画していた合計2時間のフライトプランは諦め、重要なスポットをマニュアルで撮影しました。今回は、今冬にグリーンランドの調査で使用するM A V I C 3を大学院生の1人が持参したため、残りの時間は、この機材の習熟訓練を行いました。M A V I Cは大変使いやすいドローンで、当研究室でもM A V I C2 Proを各種調査に活用しています。
天気予報では、次第に雨が強くなる予報だったので、ドローンによる撮影を早々に切り上げ、風穴に温度測定のためのセンサーを設置する作業を行いました。冷気が噴き出している3個の風穴にそれぞれ温度センサーを設置しました。また、岩塊斜面上部の冷気が感じられない箇所にも参考のために2個の温度センサーを設置します。これらのセンサーは、10分インターバルで温度を記録できるので、風穴の温度が季節的にどのように変動するか記録してくれるはずです。
調査を終え、下山を開始すると雨が強くなりました。蒸し暑さに火照った身体には心地よい雨です。麓の駐車場に戻る頃には、全身ズブ濡れになりましたが、午前中の暑さでへばった身体を冷やすには、ちょうどよい雨となりました。
最後になりましたが、本調査を進めるにあたり、調査地を管理される王子木材緑化株式会社様には調査を許可してくださり、大変お世話になりました。記して感謝申し上げます。