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今年は6月下旬と10月中旬に知床のオホーツク海沿岸で海岸漂着ごみの調査を実施しました。調査地はすでに積雪のために入域できないため、今回は今年最後の調査として、12月5日〜8日にかけて、当地で海岸漂着ごみに関わる人々に聞き取り調査を実施しました。聞き取り調査の対象は、地方自治体、漁業協同組合、環境省自然保護官、ボランティア、管理団体などの諸機関・関係者です。

海岸漂着ごみは、誰しもが問題と思っていながらも、責任の所在があいまいであることや処理のための予算が必要であることにより、なかなか解決が難しい問題です。ましてや、知床世界自然遺産内は、険しい自然と世界自然遺産の管理体制により、誰でも簡単にアクセスできるわけではないので、回収も一筋縄ではいきません。聞き取り調査により、それぞれの機関や関係者が多くの努力を割いているにもかかわらず、なかなか解決には至っていないことがわかりました。

我々の役割は、自然科学的な方法に基づいて、漂着ごみの経年モニタリングのデータから、漂着ごみの質量収支の時間変化を明らかにすることです。漂着ごみの内容物、体積と重量、堆積・侵食のメカニズムと発生時期が明らかになれば、回収のタイミングや回収の頻度などについて、実際に漂着ごみ問題の解決に取り組む人々に情報を提供できるのではないかと考えています。

皆さんから聞き取った情報を参考にしながら、来年度も調査を継続したいと思っています。なお、本研究は、当研究室の西川穂波の修士研究として実施しました。調査は晴天に恵まれ、冠雪した美しい知床連山を仰ぎながら実施できました。調査にご協力くださった関係諸機関・個人の皆様に心よりお礼申し上げます。

10月初旬に訪れた北海道東部の別寒辺牛(べかんべうし)川流域の河川調査を再度実施しました。今回は、研究室の大学院生2名と一緒です。期間は11月8日から12日の5日間でした。このところの不順な天候のため、別寒辺牛川の増水が心配でしたが、案の定、10月初旬とさほど変わらぬ高い水位に悩まされました。今回の調査の目的は、大きく分けて3つあります。ひとつは、7月から開始した上流域の水位観測データを回収することです。チャンベツ川、別寒辺牛川、トライベツ川の三つの支流にそれぞれ水位計を設置しましたが、10月初旬は水位が高く、これらの機材を回収することができませんでした。今回は、冬が来る前になんとしても機材を撤収し、7月以降の水位・水温データを回収する必要がありました。この仕事は、博士課程2年の丁さんが主に担当しました。一桁しかない水温の河川に入って機材を回収する作業は、ドライスーツを着ていても大変つらい作業です。丁さんの頑張りにより、これらの3つの水位計は全て回収され、7月以降の上流域における水位・水温データの取得に成功しました。二つ目の課題は、ここ数年流量観測を継続しているRB1と名付けた中流域の観測点での流量の連続観測です。この観測には、ADCPと呼ばれる係留型の観測機材を河床に設置する必要があるのですが、RB1の水位は観測が可能な水位を越えており、残念ながらこの課題は断念せざるを得ませんでした。三つ目は、修士課程1年の竹内さんが取り組んでいる流域の各地点における河川水中のCDOM濃度の観測です。CDOMセンサーと呼ばれる機材で現場の河川水中のCDOM濃度を測定すると同時に、河川水を採水し、厚岸にある北海道大学の臨海実験所において、採水した水試料の吸光度を測定します。これにより、CDOMセンサーで測定した値をCDOM濃度に換算することが可能となります。CDOMは衛星観測によっても追跡できるので、現場で得た河川水のCDOM濃度をリファレンスとし、別寒辺牛川から厚岸湖・厚岸湾に流出するCDOMを衛星データで追跡することが竹内さんの修士論文のテーマです。
 以上、今回の観測はできなかったこともありましたが、予定していた観測の多くを完了することができました。今後は、別寒辺牛川が結氷する1月中旬以降、および3月の融雪洪水時に同様な観測を実施する予定です。今回の観測では、いつものように北海道大学厚岸臨海実験所、ならびに水鳥観察館にお世話になりました。仲岡教授、伊佐田准教授、澁谷さんを始めとするスタッフの皆様に感謝いたします。

RB0水位計回収

降雪の便りが各地から届き始めた10月下旬、北海道最北端の湿原で調査を行いました。今回は、岐阜大学の研究グループのサポートです。天候に恵まれ、黄金色に輝く湿原は、美しさと静寂を併せ持っていました。まもなくこの湿原も深い積雪に覆われます。

湿原調査

10月11日から14日にかけて、2018年11月に開始した世界自然遺産知床の海岸漂着ごみ調査に出かけてきました。当研究室では、2018年〜2019年は杉田優さん、2019年〜2020年は木下拓さん、そして2020年〜2021年は西川穂波さんがそれぞれ修士論文のテーマとしてこの研究に取り組んでいます。

そもそも世界自然遺産の知床の海岸になぜ大量の漂着ごみが堆積したままになっているのかという疑問が湧いたのは、私(白岩)が知床科学委員会の委員として活動していた時のことです。同委員会の海域ワーキンググループは、さまざまなモニタリングデータを通じて、知床を取り巻く海域の環境を評価し、問題があれば改善に向けた科学的な対策を検討することを主な任務としています。海水温の変動、毎年の海氷の分布状況、クロロフィルデータによる植物プランクトン生産量の推定、海獣のセンサス、漁獲量に基づく魚類資源の動態などを評価し、知床が世界自然遺産としての基準を満たしているかについて、毎年評価を行っています。この会議の中で、海中のごみが話題になったことがあり、これに関連して海岸に漂着したごみの状況も非公式の話として出てきました。それによると、知床半島の海中や海岸部には、漁業由来の産業廃棄物や遠方から運ばれた漂着ごみが相当程度堆積しているとのことでした。

知床半島の海岸漂着ごみについては、知床財団が実施した詳細な報告書が公開されています。

知床半島海岸ゴミ回収業務報告書 平成22年3月 財団法人 知床財団

この報告書は、知床半島の海岸全域の漂着ごみの状態を地上と上空から調査し、いくつかの地点で試験的にごみを回収することによって、ごみの内容を分析し、また、堆積したごみの体積・重量を実測し、ごみの回収に必要なさまざまな課題を詳細に検討しています。また、調査によって得られた情報を、地域のステークホルダーと共有することで、海岸漂着ごみ問題の解決に向けた議論を行なっています。

しかし、このような先進的な報告書が出版されたにも関わらず、平成21年に実施された知床財団による回収実験から12年が経過した現在、知床半島の漂着ごみ問題は完全な解決を見ていません。この間、地元ボランティアと地方自治体が中心となって、知床岬周辺とルシャ地区におけるごみの回収作業を行い、知床岬周辺ではかなりの漂着ごみが回収され、ルシャ地区でも同様な状況にあります。しかし、この回収作業は一般ごみを対象とした回収であり、漁具に代表される産業廃棄物は回収の対象になっていないと聞いています。また、これらの海岸では、大量の流木がごみと混在となって堆積しており、ごみを人力に頼って効率よく回収することが難しい状況にあります。

以上のような現状を背景とし、我々の研究室では、ルシャ地区を調査対象として、海岸漂着ごみの動態調査を実施することにしました。漂着ごみがいつ、どのような状況で堆積(あるいは流出)するのか、年々の漂着ごみの質量収支はどうなっているのか、漂着ごみの内容と体積・重量の内訳などを調べています。2018年11月に調査を開始して以来、3年間のモニタリングですこしずつ漂着ごみの動態がわかってきました。この3年間、ルシャ地区の海岸漂着ごみの質量は、大きく変化しておりません。もちろん、ボランティアによる清掃活動により、一般ごみは海岸の一部で着実に減りつつあります。しかし、漂着ごみの大部分を占める漁網やロープなどの産業廃棄物は大きく変化していません。タイムラプスカメラを用いた海岸の形状モニタリングによると、初冬の高波によって、2020年12月中旬に海岸の一部が変形を受けたことがわかりましたが、漂着ごみの分布を大きく変えるほどのものではありませんでした。

漂着ごみ問題の解決が遅れている理由のひとつに、知床が世界自然遺産であるという逆説的な視点も我々は持っています。つまり、世界遺産でなければ、誰でも立ち入ることができるため、漂着ごみの存在が周知され、ボランティアをはじめとする回収作業が比較的実施しやすいという見方です。また、地域の主要な産業である漁業由来の産業廃棄物が漂着ごみの大部分を占めているという点も、地域の人々が声を上げずらい理由のひとつかもしれません。堆積している漁網やロープなどの産業廃棄物が、この地域の漁業活動に起因するという証拠を我々は持っていませんが、サケ定置網漁業に使用される土俵と呼ばれるアンカーに用いられた袋などが大量に堆積している状況を考えると、一定程度の廃棄物が地域の漁業によって出ている可能性は高いと思います。どうしたら、これらの漂着ごみを減らすことができるのか、また、いま堆積している漂着ごみを回収するには、いったいどのくらいのコストが必要なのか?世界自然遺産知床の将来を考えるにあたり、避けては通れない問題と思います。関係する全てのステークホルダーが連携して取り組まなければならない課題です。

2021年はコロナ禍により札幌市にしばしば緊急事態宣言が発出され、知床での現地調査も大きく制約を受けました。今回は、6月に続く、今年2回目の調査でした。2日間という短い時間でしたが、秋の好天に恵まれ、Phantom 4RTKを用いた対象地域の写真測量と方形区のゴミの調査を実施することができました。また、3ケ所で撮影している海岸のタイムラプスカメラのデータも取得できました。これらのデータを参考に、引き続き、漂着ごみの実態について調べていく予定です。最後になりましたが、本調査に協力してくださっている財団法人 知床財団には心より感謝申し上げます。

知床半島ルシャ地区

低温科学研究所が推進する共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー」(代表: 長尾誠也 金沢大学)の集中観測が北海道の厚岸にて行われました。別寒辺牛川、厚岸湖、厚岸湾、沿岸親潮を対象とした川と外洋をつなぐ物質の流れを捉える観測です。我々河川班は、別寒辺牛川の最下流域において、別寒辺牛川と厚岸湖の間の水・物質収支を10月5日〜7日の3日間にわたって観測しました。この河川観測には、北海道大学低温科学研究所、北海道大学北方圏フィールド科学センター、金沢大学、国立環境研究所、ザイレムジャパン株式会社が参加し、河川流量、各種溶存化学物質、懸濁物質などの測定を行いました。天候に恵まれ、観測は成功裡に終了しました。観測にあたっては、厚岸水鳥観察館の皆様にたいへんお世話になりました。記して感謝申し上げます。

別寒辺牛川最下流域の河川流量観測風景

環境省、文化庁、後志総合振興局から研究に必要な各種許可をいただいたので、修士1年飯田幹太さんの修論研究、羊蹄山山頂における永久凍土探査の研究が始まりました。永久凍土の存在を確認するためには、大地に縦孔をあけ、その中に温度計を設置して1年間にわたって温度を計測する必要があります。ある深度で、もし1年間にわたって氷点下の温度が記録されれば、それが永久凍土です。地表面下の地温は、大気からの熱と、地球内部からの地熱の二つのバランスで決まります。北海道のような寒冷地では、冬季の冷たい大気によって地表面は凍結しますが、春になると日射によって融けてしまいます。このような凍土は、季節凍土とよばれ、永久凍土とは違います。寒冷地とはいっても、夏には気温が上昇し、地表面から地下に向かって融解が進行します。ですから、もし永久凍土があるとすると、夏の融解が到達しない深さにあるはずです。これが5mなのか、10mなのかは、その場所の気温の季節変化と大地を構成する物質の熱伝導率によって変わってきます。ですから、10mくらい縦孔をあけ、その中に地温計を設置することで、地下の温度を計測する必要があるのです。

秋晴れと紅葉に恵まれた第1回目の調査では、重い掘削機材と掘削に必要な20Lの水を山頂に持ち上げました。コロナ禍で羊蹄山での宿泊ができないため、作業は日帰りとなります。短い作業時間を効率よく使い、気温計1ケ所と深度1mの地温計を2ケ所設置しました。安山岩でできた大地はなかなか掘削が難しいこともわかりましたので、10mの掘削は来春までの継続作業となるでしょう。まもなくやってくる初雪の前にできるだけ作業を進めるべく、好天を逃さないよう作業を続ける予定です。

羊蹄山山頂の掘削作業

羊蹄山はスキーリゾートとして有名なニセコエリアにある標高1,898mの成層火山です。この羊蹄山の山頂付近にはアースハンモックやソリフラクションローブなどの周氷河地形が発達し、一部には風衝砂礫地も見られることから、永久凍土が存在する可能性が指摘されていますが、その存在を確認した報告はありません。当研究室では、今年から研究室に加わった大学院生の修士論文のテーマとして、羊蹄山の山頂において永久凍土の存在を確認することを試みます。研究方法としては、1)ドローンを用いたSfM-MVS法による周氷河地形のマッピング、2)ドローン搭載型サーマルカメラを用いた山頂の地表面温度の不定期モニタリング、3)気温計・地温計による表層温度の通年モニタリング、4)浅層掘削による永久凍土の探査、の4つを計画しています。

温暖化でさまざまな環境が変化する中、山岳永久凍土はもっとも鋭敏な気候変化のセンサーとして世界中の山岳域でモニタリングされています。北海道でも大雪山や知床、然別湖付近で永久凍土の調査が進んでおり、羊蹄山の山頂でのモニタリングを加えることで、北海道の高所で進行する気候変化の実態が捉えられることを期待しています。

羊蹄山山頂のアースハンモック

 7月8日から14日にかけて、大学院生の3名と共に道東の別寒辺牛(べかんべうし)川水系において水文観測を実施しました。火砕流台地の根釧原野を刻んで流れる水系です。低平な中・下流部は広大な湿原域となっており、潮汐の影響を受けるため、湿原の湛水機能とあいまって、流出過程が複雑な河川です。
 今回は、これまで維持してきた下流域の別寒辺牛川橋の水文観測点(RB1)において水位観測を再開すると共に、その上流に合流する3支流であるトライベツ川(RT)、別寒辺牛川本流(RB0)、チャンベツ川(RQ)に水位観測点を設置することを主目的としました。また、国道44号線が別寒辺牛川と交わる地点(RB2)にも水位計を設置しました。これらの地点において、H-Q曲線を作成することで、通年にわたる流出量を求めようと考えています。RB1では、これまでも実施してきたように、滞在期間中のみ、ADCPを係留して、水位、インデックス流量、流量を10分インターバルで測定しました。
 これらの作業を行う一方、別寒辺牛川水系の広域において、溶存・懸濁態シリカ分析用の採水、ならびにCDOMの測定を実施しました。最終日には、RB1から水鳥観察館までをカヌーで航行し、連続的なCDOMと水温・塩分のデータを取得することもできました。
 次回は9月初旬と10月初旬に現地観測を実施する予定です。

いつまでもずるずると続くコロナ禍によって大きく影響を受けている当研究室の野外調査ですが、6月20日に北海道を対象とした緊急事態宣言が解除されたことを受け、道内を対象とするものに限って再開しました。まずは、知床世界自然遺産内の海岸に漂着するゴミのモニタリングです。この調査は、修士2年の西川の修士研究テーマです。2018年11月に開始したモニタリングも2年半が経過し、漂着ゴミの内容と時間的な挙動がすこしずつわかってきました。今回の調査は、2020年の晩秋から2021年の春にかけて、どのような変化が起こったか調べることが主目的でした。方法は、ドローンを用いたSfM-MVS法による漂着ゴミの形状の測定、およびインターバルカメラを用いた写真データ解析です。

あいにく、出発直前に測量の主力機であるDJI社製Phantom 4RTKが故障するというハプニングがあり、新しく導入したDJI社製Matrice 300RTKとZenmuse H20Tだけでの作業となりました。幸い、天気に恵まれ、予定していた写真測量は無事に終了。この冬に予想以上に海岸の状況が変わったようで、3台設置していたインターバルカメラのうち、1台が流出していました。残っていた2台のカメラには無事に1時間毎に撮影された映像が記録されていましたので、冬の間に海岸に起こった変化の解析が楽しみです。

調査は6月25日から6月29日まで実施しました。新たに研究室に加わった山岳部出身の2人の強力なサポートを受け、これまでできなかったゴミの計量も実施することができ、実りの多い調査となりました。次は8月末から9月頃に再調査の予定です。

SfM-MVS測量のためのRTK基準点の設置

コロナウィルスの蔓延で大きく混乱した2020年度が終わり、2021年度が始まりました。昨年度は、当研究室が得意としている野外調査にも制約があり、海外調査は実施できず、北海道内の調査のみ行うことができました。今年度は、新しく採択された環境省の環境研究総合推進費による課題「世界自然遺産・知床をはじめとするオホーツク海南部海域の海氷・海洋変動予測と海洋生態系への気候変動リスク評価(代表 三寺史夫)」、ベルモントフォーラムプロジェクト “Abandonment and rebound: Societal views on landscape- and land-use change and their impacts on water and soils (ABRESO) (PI: Tim White)”、科研費基盤研究(B)「表層と中層をつなぐ北太平洋オーバーターン:大陸からの淡水供給を介した陸海結合系(代表 三寺史夫)」、低温科学研究所共同利用 開拓型研究「陸海結合システム: 沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー(代表 長尾誠也)」にそれぞれ共同研究者として参加し、研究室の大学院生とともに研究を進めることになりました。
 研究室には、新しく2人の修士1年生を迎え、博士課程2名、修士課程4名の6名の大学院生がそれぞれのテーマで研究を進めます。上記のプロジェクトにも積極的に参加してもらい、北海道、ロシア、そしてアラスカという寒冷圏の陸面・水循環研究や海岸漂着物の研究を進めていきます。