S. Fukumoto, S. Sugiyama, S. Hata, J. Saito, T. Shiraiwa and H. Mitsudera (2022) Glacier mass change on the Kamchatka Peninsula, Russia, from 2000 to 2016, Journal of Glaciology, pp. 1 – 14
DOI: https://doi.org/10.1017/jog.2022.50
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北海道の永久凍土の分布とその動向を調べる一環として、低山の岩塊斜面に付随して発達する風穴と呼ばれる局所的な凍土を調べ始める研究を始めました。この課題に取り組むのは、環境科学院環境起学専攻の修士1年に在学する劉俊男さんです。5月の予察調査時には、手稲山の南斜面に発達する岩塊斜面の麓にある風穴の多くは積雪の下でした。7月になって積雪も無くなったので、今回はドローンを用いて風穴の冷気を熱赤外センサーで捉えることを試みました。
7月11日、曇天の中を劉さんのサポートとして調査に参加してくれた2人の大学院生と一緒に岩塊斜面への登山道を辿ります。この時期の札幌は本来ならば湿度の低い爽やかな天気に恵まれるのですが、今年は梅雨のような天候が続き、当日も湿度の高い蒸し暑い状況でした。それでも前半の登山道は琴似発寒川の清流に沿って続くため、沢の冷水で身体を冷やしながら登ります。琴似発寒川から離れると、登山道は急な尾根を辿るようになり、暑さが身体に堪えます。頑張って登ると、やがて傾斜が緩やかになり、ひんやりした空気が漂ってきます。この冷気は、風穴から噴き出るものだと思います。
いつ雨が降り出してもおかしくないような天気だったので、早速ドローンの支度にかかります。今回持参したドローンは、D J I社のMatrice 300RTKで、搭載するカメラはZenmuse H20Tと呼ばれる熱赤外センサーをもつカメラです。広角、ズーム、熱赤外イメージを同時に撮影できるので、風穴とその周辺の地形や植生との関係を捉えるには適したカメラです。比較的大きな機体なので、持ち上げるには苦労しますが、バッテリー容量が大きいため、長いフライトも可能なため、調査には有効な機材です。基準点に設置したG N S Sとの同時運用によって、リアルタイムキネマティックの測位ができるため、繰り返し撮影を行う際にも変化を正確に位置付けることが可能です。
残念なことに、セッティングが終了すると共に雨が降り出しました。大雨ではありませんが、防水された機材ではないので、計画していた合計2時間のフライトプランは諦め、重要なスポットをマニュアルで撮影しました。今回は、今冬にグリーンランドの調査で使用するM A V I C 3を大学院生の1人が持参したため、残りの時間は、この機材の習熟訓練を行いました。M A V I Cは大変使いやすいドローンで、当研究室でもM A V I C2 Proを各種調査に活用しています。
天気予報では、次第に雨が強くなる予報だったので、ドローンによる撮影を早々に切り上げ、風穴に温度測定のためのセンサーを設置する作業を行いました。冷気が噴き出している3個の風穴にそれぞれ温度センサーを設置しました。また、岩塊斜面上部の冷気が感じられない箇所にも参考のために2個の温度センサーを設置します。これらのセンサーは、10分インターバルで温度を記録できるので、風穴の温度が季節的にどのように変動するか記録してくれるはずです。
調査を終え、下山を開始すると雨が強くなりました。蒸し暑さに火照った身体には心地よい雨です。麓の駐車場に戻る頃には、全身ズブ濡れになりましたが、午前中の暑さでへばった身体を冷やすには、ちょうどよい雨となりました。
最後になりましたが、本調査を進めるにあたり、調査地を管理される王子木材緑化株式会社様には調査を許可してくださり、大変お世話になりました。記して感謝申し上げます。

月齢によって異なる潮汐の変化が湿原河川の感潮域の河川流出・流入量に与える影響を1年間にわたって北海道東部の厚岸湖に流入する別寒辺牛(べかんべうし)川で追いかけています。昨年の10月初旬、今年の3月下旬に続き、今回は3回目の観測となります。河口からおおよそ1.4km遡ったRB3地点に側線を設け、この側線を通過する河川流量を係留型のADCP (Sontek IQ-plus)と移動型のADCP (Sontek M9)で観測します。今回は、中潮〜小潮〜大潮〜中潮へと至る一連の月齢における連続データを取得すべく、研究室の2人の大学院生(丁・竹内)が観測にあたります。加えて、厚岸湾、厚岸湖、RB2地点(カヌー中間駅)、RB3地点(カヌー出発点)の水位データも連続で観測し、潮汐変化が別寒辺牛川の水位と流量に及ぼす影響を地点ごとに明らかにしたいと思っています。このテーマは大学院生の丁曼卉さんの博士研究のテーマです。
一方、大学院生の竹内祥太さんは、別寒辺牛川から厚岸湖・厚岸湾に流出する有色溶存有機物(CDOM)の起源とその濃度・フラックスの空間的・時間的変化の解明に取り組んでいます。BB3とRB1地点にCDOM濃度、クロロフィルa濃度、濁度を計測するセンサーを設置し、時間と共に変化するCDOM濃度の観測を行います。また、流域の各地点で、河川水を採水し、そのCDOM濃度を分析する計画もあります。加えて、湿原の土壌水を吸引し、地下のCDOM濃度の測定も実施します。2週間の長期観測となりますが、2人の研究が順調に進むことを願っています。
今回の観測でも、これまで同様、北海道大学フィールド科学センター厚岸臨海実験所、厚岸水鳥観察館の2機関には大変お世話になりました。北海道大学北方圏フィールド科学センターの柴田英昭教授には、現地調査にご協力いただきました。国立環境研究所の中田聡史博士には、CDOM、クロロフィルa, 濁度測定のための計器をお借りしました。ザイレムジャパンの中田正人氏にはADCP (Sontek M9)のレンタルと運用でお世話になりました。本研究は、北海道大学 低温科学研究所 開拓型共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー(代表 長尾誠也 金沢大学)、およびベルモントフォーラム ABRESOプロジェクト(代表 T. White, ペンシルバニア州立大学)の一環として実施されました。上記の機関と個人に記してお礼申し上げます。

2018年11月に開始した知床世界自然遺産のオホーツク海側の海岸漂着ごみ調査を今年も再開しました。この調査・研究は、知床財団との共同研究です。今回は、このテーマで博士論文の研究を進めている西川と、あたらしく修士課程に入学した伊原と私の3名での調査です。6月5日の出発当日は車のエンジントラブルで札幌に引き返すというハプニングがありましたが、車を換えて6月6日に再び知床に向かいました。6月7日は、我々の調査地でヒグマの生態捕獲調査があるということで、安全のため、羅臼側の海岸の調査を実施しました。知床岬にもっとも近い相泊の海岸から標津に至る海岸の目視観測です。6月8日はウトロ側の調査地であるルシャ湾に向かい、設置していたタイムラプスカメラのデータ回収と再設置、写真測量のためのGCPの設置と測位、Phamtom 4RTKを用いたSfM-MVS写真測量、そしてMatrice 300RTKに搭載したサーマルイメージャーによる熱赤外画像の撮影を実施しました。6月9日は、より広範囲の海岸を対象に同様な作業を繰り返し、6月10日は漂着ごみの計量調査を実施して、ほぼ予定していた作業を終えることができました。これらの現地調査と並行し、知床のウトロで漂着ごみ問題に取り組む何名かの方々とミーティングを行い、研究成果と実際のごみ問題の解決をつなげる方策について意見交換を行いました。
調査地では、昨年の晩秋から今冬にかけて、 高い波浪が生じたようで、2018年11月にこの調査を開始して以降、最大の地形と漂着ごみの変化が起こっていました。今後は得られたデータの解析を進め、漂着ごみの質量収支変化を明らかにします。次回は9月中旬以降の調査を予定しています。
なお、本研究の実施にあたっては、環境研究総合推進費による課題「世界自然遺産・知床をはじめとするオホーツク海南部海域の海氷・海洋変動予測と海洋生態系への気候変動リスク評価(代表 三寺史夫)」を使用させていただきました。

今年度に入学した修士1年生の修論テーマとして、UAVに搭載された熱赤外センサーを用いて、低地に発達する局所的な永久凍土として知られる風穴の調査を行うことになりました。風穴は、北海道の各所に存在することが報告されており、その維持機構についてはいくつかの先行研究があります。我々は、北海道のいくつかの岩塊斜面を対象に、サーマルイメージャーとよばれる赤外線を利用した機器で、上空から地表面の放射温度を測定することで、広い岩塊斜面でどこに風穴が発達するのかを解明したいと考えています。現在は調査対象地域で調査を行うための各種許可を申請しています。許可が得られ次第、これらの岩塊斜面を対象に調査を開始します。

低温科学研究所が推進する共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー」(代表: 長尾誠也 金沢大学)の一環として、3月24日から27日にかけて今年最初の別寒辺牛川の流量観測を実施しました。別寒辺牛川、厚岸湖、厚岸湾、沿岸親潮を対象とした川と外洋をつなぐ物質の流れを捉えるための観測です。昨年の10月5日〜7日の3日間にわたって観測を行った最下流部の観測断面(RB3)に超音波ドップラー流速プロファイラー(Sontek IQ plus)を設置し、3月24日17:00から3月26日14:00までの小潮時に5分インターバルで流量データを測定しました。この観測に加え、3月25日と3月26日の下潮時に超音波流速計(Sontek RiverSurveyor M9)を用いて横断面の流量観測を行い、インデックス法を用いることでIQ plusで取得した流量の時系列データを補正しました。その結果、観測期間には約1,000,000立法米/日の淡水流出があったことが判明しました。昨年の10月初旬の大潮時には、降雨直後だったこともあり、約2,000,000立法米/日の流出量がありましたので、今回の流出量はおおよそ半分であったことになります。実は、今回の観測は春の融雪洪水を狙って計画したのですが、観測を行った3月24-26日は、まだ融雪があまり進んでおらず、むしろ冬季の終わりを代表するような流況でした。3月26日の夜半に低気圧が道東を通過したことにより激しい風雨がありました。その結果、3月27日には河川流量が増加したことを現地で確認しています。ただし、この河川流量の増加によって、本流と支流の上流から、たくさんの氷塊が流下を始め、カヌーで観測を実施するにはあまりに危険な状態となりました。このため、増水以降の流量データは観測できていません。融雪洪水時の流量観測は今後の課題です。
この河川観測には、北海道大学低温科学研究所、北海道大学北方圏フィールド科学センター、同厚岸臨海実験所に関わる研究者と学生が参加しました。観測にあたっては、厚岸水鳥観察館の皆様にたいへんお世話になりました。記して感謝申し上げます。

新年明けましておめでとうございます。
札幌は年末から降り始めた雪で、すっかり白い街に変わりました。毎日低温が続いており、北海道らしい新年の始まりです。
コロナウィルスとの付き合いも、そろそろ2年になります。オミクロン株の市中感染が各地から報告されており、まだまだコロナウィルスに翻弄される日々が続きそうですが、これまで学んだコロナウィルスの性質を理解して、感染対策を続けながら、できるだけ通常の生活に戻っていきたいと思っています。
来月には2名の修論生が修士研究を発表すべく、最後の追い込みにかかっています。2名の博士課程の学生は、2022年度中の博士論文の提出を目指して、解析を続けています。修士1年生の二人は、正月休みを山で過ごしたようです。4月には、新たに2名の修士学生を研究室に迎える予定です。個性豊かな学生が研究活動に専念できるよう、できるだけのサポートをしていくつもりです。
研究室では、1月下旬の道東での結氷河川の観測を皮切りに、今年も積極的に野外での観測・調査を行います。3月は融雪出水をとらえるべく、同じ道東の河川で観測を行います。4月になると、山の雪も落ち着いてきますので、昨年から始めた羊蹄山山頂の永久凍土調査の開始です。6月には知床半島の調査地にもアクセスができるようになりますので、海岸漂着ごみの調査が開始される予定です。
このような感じで、今年も当研究室では、北海道の各地で研究を継続します。そして、コロナ禍が落ち着いたら、いよいよ中断していたロシア極東での観測活動の再開です。
今年もよろしくお願いいたします。
今年は6月下旬と10月中旬に知床のオホーツク海沿岸で海岸漂着ごみの調査を実施しました。調査地はすでに積雪のために入域できないため、今回は今年最後の調査として、12月5日〜8日にかけて、当地で海岸漂着ごみに関わる人々に聞き取り調査を実施しました。聞き取り調査の対象は、地方自治体、漁業協同組合、環境省自然保護官、ボランティア、管理団体などの諸機関・関係者です。
海岸漂着ごみは、誰しもが問題と思っていながらも、責任の所在があいまいであることや処理のための予算が必要であることにより、なかなか解決が難しい問題です。ましてや、知床世界自然遺産内は、険しい自然と世界自然遺産の管理体制により、誰でも簡単にアクセスできるわけではないので、回収も一筋縄ではいきません。聞き取り調査により、それぞれの機関や関係者が多くの努力を割いているにもかかわらず、なかなか解決には至っていないことがわかりました。
我々の役割は、自然科学的な方法に基づいて、漂着ごみの経年モニタリングのデータから、漂着ごみの質量収支の時間変化を明らかにすることです。漂着ごみの内容物、体積と重量、堆積・侵食のメカニズムと発生時期が明らかになれば、回収のタイミングや回収の頻度などについて、実際に漂着ごみ問題の解決に取り組む人々に情報を提供できるのではないかと考えています。
皆さんから聞き取った情報を参考にしながら、来年度も調査を継続したいと思っています。なお、本研究は、当研究室の西川穂波の修士研究として実施しました。調査は晴天に恵まれ、冠雪した美しい知床連山を仰ぎながら実施できました。調査にご協力くださった関係諸機関・個人の皆様に心よりお礼申し上げます。

10月初旬に訪れた北海道東部の別寒辺牛(べかんべうし)川流域の河川調査を再度実施しました。今回は、研究室の大学院生2名と一緒です。期間は11月8日から12日の5日間でした。このところの不順な天候のため、別寒辺牛川の増水が心配でしたが、案の定、10月初旬とさほど変わらぬ高い水位に悩まされました。今回の調査の目的は、大きく分けて3つあります。ひとつは、7月から開始した上流域の水位観測データを回収することです。チャンベツ川、別寒辺牛川、トライベツ川の三つの支流にそれぞれ水位計を設置しましたが、10月初旬は水位が高く、これらの機材を回収することができませんでした。今回は、冬が来る前になんとしても機材を撤収し、7月以降の水位・水温データを回収する必要がありました。この仕事は、博士課程2年の丁さんが主に担当しました。一桁しかない水温の河川に入って機材を回収する作業は、ドライスーツを着ていても大変つらい作業です。丁さんの頑張りにより、これらの3つの水位計は全て回収され、7月以降の上流域における水位・水温データの取得に成功しました。二つ目の課題は、ここ数年流量観測を継続しているRB1と名付けた中流域の観測点での流量の連続観測です。この観測には、ADCPと呼ばれる係留型の観測機材を河床に設置する必要があるのですが、RB1の水位は観測が可能な水位を越えており、残念ながらこの課題は断念せざるを得ませんでした。三つ目は、修士課程1年の竹内さんが取り組んでいる流域の各地点における河川水中のCDOM濃度の観測です。CDOMセンサーと呼ばれる機材で現場の河川水中のCDOM濃度を測定すると同時に、河川水を採水し、厚岸にある北海道大学の臨海実験所において、採水した水試料の吸光度を測定します。これにより、CDOMセンサーで測定した値をCDOM濃度に換算することが可能となります。CDOMは衛星観測によっても追跡できるので、現場で得た河川水のCDOM濃度をリファレンスとし、別寒辺牛川から厚岸湖・厚岸湾に流出するCDOMを衛星データで追跡することが竹内さんの修士論文のテーマです。
以上、今回の観測はできなかったこともありましたが、予定していた観測の多くを完了することができました。今後は、別寒辺牛川が結氷する1月中旬以降、および3月の融雪洪水時に同様な観測を実施する予定です。今回の観測では、いつものように北海道大学厚岸臨海実験所、ならびに水鳥観察館にお世話になりました。仲岡教授、伊佐田准教授、澁谷さんを始めとするスタッフの皆様に感謝いたします。
