Archive for the ‘education’ Category

低温科学研究所が推進する共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー」(代表: 長尾誠也 金沢大学)の集中観測が北海道の厚岸にて行われました。別寒辺牛川、厚岸湖、厚岸湾、沿岸親潮を対象とした川と外洋をつなぐ物質の流れを捉える観測です。我々河川班は、別寒辺牛川の最下流域において、別寒辺牛川と厚岸湖の間の水・物質収支を10月5日〜7日の3日間にわたって観測しました。この河川観測には、北海道大学低温科学研究所、北海道大学北方圏フィールド科学センター、金沢大学、国立環境研究所、ザイレムジャパン株式会社が参加し、河川流量、各種溶存化学物質、懸濁物質などの測定を行いました。天候に恵まれ、観測は成功裡に終了しました。観測にあたっては、厚岸水鳥観察館の皆様にたいへんお世話になりました。記して感謝申し上げます。

別寒辺牛川最下流域の河川流量観測風景

環境省、文化庁、後志総合振興局から研究に必要な各種許可をいただいたので、修士1年飯田幹太さんの修論研究、羊蹄山山頂における永久凍土探査の研究が始まりました。永久凍土の存在を確認するためには、大地に縦孔をあけ、その中に温度計を設置して1年間にわたって温度を計測する必要があります。ある深度で、もし1年間にわたって氷点下の温度が記録されれば、それが永久凍土です。地表面下の地温は、大気からの熱と、地球内部からの地熱の二つのバランスで決まります。北海道のような寒冷地では、冬季の冷たい大気によって地表面は凍結しますが、春になると日射によって融けてしまいます。このような凍土は、季節凍土とよばれ、永久凍土とは違います。寒冷地とはいっても、夏には気温が上昇し、地表面から地下に向かって融解が進行します。ですから、もし永久凍土があるとすると、夏の融解が到達しない深さにあるはずです。これが5mなのか、10mなのかは、その場所の気温の季節変化と大地を構成する物質の熱伝導率によって変わってきます。ですから、10mくらい縦孔をあけ、その中に地温計を設置することで、地下の温度を計測する必要があるのです。

秋晴れと紅葉に恵まれた第1回目の調査では、重い掘削機材と掘削に必要な20Lの水を山頂に持ち上げました。コロナ禍で羊蹄山での宿泊ができないため、作業は日帰りとなります。短い作業時間を効率よく使い、気温計1ケ所と深度1mの地温計を2ケ所設置しました。安山岩でできた大地はなかなか掘削が難しいこともわかりましたので、10mの掘削は来春までの継続作業となるでしょう。まもなくやってくる初雪の前にできるだけ作業を進めるべく、好天を逃さないよう作業を続ける予定です。

羊蹄山山頂の掘削作業

羊蹄山はスキーリゾートとして有名なニセコエリアにある標高1,898mの成層火山です。この羊蹄山の山頂付近にはアースハンモックやソリフラクションローブなどの周氷河地形が発達し、一部には風衝砂礫地も見られることから、永久凍土が存在する可能性が指摘されていますが、その存在を確認した報告はありません。当研究室では、今年から研究室に加わった大学院生の修士論文のテーマとして、羊蹄山の山頂において永久凍土の存在を確認することを試みます。研究方法としては、1)ドローンを用いたSfM-MVS法による周氷河地形のマッピング、2)ドローン搭載型サーマルカメラを用いた山頂の地表面温度の不定期モニタリング、3)気温計・地温計による表層温度の通年モニタリング、4)浅層掘削による永久凍土の探査、の4つを計画しています。

温暖化でさまざまな環境が変化する中、山岳永久凍土はもっとも鋭敏な気候変化のセンサーとして世界中の山岳域でモニタリングされています。北海道でも大雪山や知床、然別湖付近で永久凍土の調査が進んでおり、羊蹄山の山頂でのモニタリングを加えることで、北海道の高所で進行する気候変化の実態が捉えられることを期待しています。

羊蹄山山頂のアースハンモック

地球温暖化で変化するオホーツク海の実態を知るべく、外務省と環境省の主催、ロシア天然資源環境省の共催で、今春、オホーツク海の海洋生態系に関するワークショップが東京で開催されました。この度、日露二カ国語で書かれた報告書が公開されましたので、お知らせします。

第5回日露隣接地域生態系保全協力ワークショップ報告書(日露2ヶ国語)

日露隣接地域生態系保全協力の活動についてはこちら

8月24日から9月7日にかけて、北海道大学環境科学院 国際南極学カリキュラムの一貫として行われているスイスアルプス氷河実習に引率の立場で参加させていただきました。4月から座学と札幌近郊の山々で行った様々な野外活動の経験を生かし、7名の大学院生がアルプスの氷河を舞台に雪氷学・地形学・地質学の実習を行いました。

今年も様々な分野を専攻する大学院生が共同で氷河や河川に関わる実習プログラムに取り組み、好天の中、スイスの自然を満喫しました。この経験を糧とし、それぞれの分野で更なる活躍をして欲しいと思っています。

2019年8月4日に放映されたTBS世界遺産「アラスカ・カナダの氷河地帯 〜 アラスカ 氷河が崩れ落ちる湾(アメリカ・カナダ)」を監修という立場でお手伝いさせていただきました。アラスカ南部のグレーシャーベイ国立公園の氷河とフィヨルド、そしてそこに暮らす野生生物の姿に焦点を当てたプログラムです。カービング氷河が崩れ落ちる映像、氷河内の融氷水路、ムーランなどのおなじみの氷河現象はもちろん、今回は氷河がフィヨルドの海洋生態系に果たす役割に注目しました。

海の生産性に果たす河川の役割については様々な研究がありますが、海域の生産性に果たす氷河の役割の研究は緒についたばかりです。グリーンランドの氷河とフィヨルドで行われている研究によれば、カービング氷河の底面から流出する氷河の融解水がフィヨルドの海域において鉛直循環を促し、これによって深層の栄養塩が表層に輸送され、フィヨルドの生産性を高めている可能性が指摘されています。

詳しい説明はできませんでしたが、今回の番組ではこの新しい視点も取り入れていただきました。

2002年〜2008年にかけて、アラスカやカナダの氷河の研究に携わる機会がありましたが、この番組を観て、久しぶりにアラスカを訪ねてみたくなりました。

低温科学研究所 共同研究集会
シンポジウム「変化する環オホーツク陸域・海域環境と今後の展望」

日時:2019 年 7 月 26 日(金) 09:00~7 月 27 日(土)16:00 場所:北海道大学 低温科学研究所 3F 講堂
主催:北海道大学 低温科学研究所
連絡先:低温科学研究所 porc-info@pop.lowtem.hokudai.ac.jp

環オホーツク観測研究センターは、オホーツク海を中心とする北東ユーラシアから西部北太平洋にわたる地域(環オホーツク圏)が地球規模の環境変動に果たす役割を解明すること、また気候変動から受けるインパクトを正しく評価することを目的とし、その国際研究拠点となることを目指して平成16年4月に設立されました。これまで、短波海洋レーダ観測、衛星観測、船舶観測、現地調査等を通し、オホーツク海及びその周辺地域の環境変動モニタリングを進めてきました。また、ロシアをはじめとする国際的な研究ネットワーク構築を進めております。近年、環オホーツク圏では温暖化が進み、シベリア高気圧 の急速な弱化、オホーツク海季節海氷域の減少、海洋中層の温暖化、陸域雪氷圏の面的変化としてその影響が鋭敏に現れ始めています。

当センターは本年設立15周年を迎えました。これを機にシンポジウム「変化する環オホーツク陸域・海域環境と今後の展望」を開催し、これまで環オホー ツク研究に関わってくださった研究者が一堂に会し、多分野に亘って進めてきた環オホーツク研究を総括するとともに、今後の展望を話し合いました。

このシンポジウムでの意見交換を踏まえ、環オホーツク研究観測研究センターは今年度中を目処に、今後の研究の方向性について取りまとめたいと思っております。

20190726

 アムール川・アムールリマン・オホーツク海のミニチュア版として、別寒辺牛川・厚岸湖・厚岸湾を選んで陸面から外洋に至る物質循環の研究が始まって丸一年が過ぎ、今年最後の観測を終えました。慣れない感潮河川の観測に四苦八苦しながらも、厚岸湾への河川流出量を定量的に把握するために、大学院生と共に2ケ月に1回のペースで厚岸を訪ねました。最後の観測は、結氷した水面を割っての観測でした。
 一年を通して訪ねることではじめて見えることも多々ありました。一番印象的なのは、湿原の淡水貯留機能。どんなにたくさん雨が降っても、しっかりと湿原に貯めて、じわじわっと水を流す河川群には驚きました。感潮河川ゆえの塩水遡上と共に、川から海への物質輸送に対して大きな影響を与える機能です。
 ミニチュアと言っても、それはアムール川と比べるからであって、調査をするには十分すぎるくらい壮大なフィールドです。来年は、更に詳細な過程を解明すべく、別寒辺牛川水系に通いたいと思います。
Untitled

TBS世界遺産というテレビ番組があります。UNESCOの世界遺産に登録された地域を紹介する番組です。ときどき、監修という形でナレーションに不正確な点がないかどうかをチェックするお手伝いをしています。以下、これまでに関わらせていただいたプログラムを列記します。いずれも氷河や寒冷地の自然をダイナミックな映像で紹介する素晴らしい内容でした。もともと空撮映像が得意な番組でしたが、最近ではUAVを駆使した斬新な映像も登場します。

研究視点で見てもいろいろ勉強になる番組です。自分では考えなかったようなアングルから氷河や地形を見せてもらうと、新しいアイデアが浮かんでくることもありました。最近放映されたモンテネグロのコトル湾の番組をみて、地中海地域の氷河作用について勉強する機会を持つことができました。

自然の仕組みをどのように視聴者に伝えるかについても勉強させてもらえます。研究者は往々にして細かい説明を長々とやりますが、核心を突いた短いメッセージやCGで事の本質をどう伝えるか、この番組はいつも考えさせてくれます。

世界遺産は年々増えているので、今後も世界の各地から素晴らしい映像を届けてくれることを期待しています。

#618 ヴェガ群島(2021/10/31)
#612 スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ(2021/9/19)
#606 イルリサット・アイスフィヨルド(2021/7/18)
#586 ウッドバッファロー国立公園(2021/2/21)
#576 ハイコーストとクヴァルケン群島(2020/11/22)
#563 西ノルウェーのフィヨルド群(2020/8/16)
#561 バイカル湖(2020/7/26)
#556 テ・ワヒポウナム(2020/6/14)
#524 レーティシュ鉄道(2019/9/22)
#518 アラスカ・カナダの氷河地帯(2019/8/4)
#489 ウォータートングレーシャー国際平和自然公園 (2018/12/2)
#484 グロスモーン国立公園(2018/10/21)
#481 ピレネー山脈ペルデュ山(2018/9/30)
#476 ワスカラン国立公園(2018/8/19)
#434 イルリサット・アイスフィヨルド(2017/9/10)
#404 スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ(2017/1/8)
#333 テ・ワヒポウナム(2015/5/24)
#309 サーミ人地域(2014/11/9)
#304 西ノルウェーのフィヨルド群(2014/9/28)
#224 アラスカ・カナダの氷河地帯II(2012.11.25)
#223 アラスカ・カナダの氷河地帯I(2012.11.18)
#190 ハイコーストとクヴァルケン群島(2012/2/26)
#172 ユングフラウ・アレッチュ氷河(2011/10/16)
#123 ワスカラン国立公園(2010/9/26)
#118 イルリサット−アイスフィヨルド(2010/8/22)
#107 テ・ワヒポウナム(2010/5/30)
SP 深津絵里と行く極北グリーンランド(2010/5/29)
#93 カナディアンロッキー山脈自然公園群(2010/2/14)
#82 西ノルウェーのフィヨルド群(2009/11/15)
#43 ロス・グラシアレス(2009/2/1)
第568回 世界遺産が語る地球46億年II 氷河(2007/11/11)
第488回 アラスカ・カナダ国境の山岳公園II(2006/3/26)
第487回 アラスカ・カナダ国境の山岳公園I(2006/3/19)

オホーツク海の熱塩循環に及ぼすカムチャツカ半島の河川からの淡水供給の影響を解明すべく、今夏はカムチャツカ半島最大の河川であるカムチャツカ川に注目して現地調査を行いました。調査を行ったのは、7月16日から7月30日の16日間。まずはカムチャツカ川の河川水が沿岸域でどのように広がっているのかを解明すべく、ペトロパブロフスクからカムチャツカ川の河口に至る沿岸海域を船舶を利用して航行しました。調査項目は水温・塩分の鉛直観測と採水です。次いで、カムチャツカ川の源流からカムチャツカ川の河口の町 ウスチカムチャツカまで陸路で移動し、カムチャツカ川の水温測定と採水を実施しました。海洋観測では船酔い、陸上観測では蚊の猛攻撃に悩まされましたが、貴重なデータを取得することができました。来年は、同様な観測をカムチャツカ半島のオホーツク海側で実施したいと思っています。