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週末毎に大学院生のフィールドを順番に巡っているうちに、すっかり夏も後半となり、暦の上では立秋となってしまいました。現在、当研究室の大学院生が進めている研究の調査地は、海岸(2名)、湿原河川(3名)、山(2名)、モデル(2名)となっており、必然的に山に行く機会は限られてしまいます。コロナウィルスの蔓延で2年間中止していたスイス実習を今月末に再開することになり、月末から引率教員の1人としてスイス・アルプスに出かけることになりました。湿原や川などの調査ばかりで、すっかり鈍ってしまった足腰でアルプスに出かけると、参加する大学院生に申し訳ないので、この週末はトレーニングと趣味を兼ねて、日高山脈の最南端にあるアポイ岳に出かけました。標高810.5mの低山ですが、幌満かんらん岩体でできた特殊な山で、マグネシウムやニッケルに富み、カルシウムやリンが欠乏するという岩質が作り出す土壌によって、特異な植生が見られることで有名です。

札幌から登山の起点となる様似まではなかなか遠く、4時半に札幌を出て、様似にある登山口に到着したのは8時でした。さっそく登山の準備を始め、登山口にある入山記録簿に名前を書いて出発します。キタゴヨウとアカエゾマツの針葉樹林の中のゆるやかな道を辿っていくと、1合目、2合目という里程と共に、たくさんの案内板が登場します。この山は、ジオパークにも登録されているので、案内板を読みながらいろいろ勉強させてもらいます。不思議なのは、北海道のどこにでもある笹がこの森林の林床にもありますが、背丈が低く、膝くらいの高さまでしかありません。これも超塩基性岩の影響なのか、それとも冬の雪が少ないためでしょうか。

5合目にある避難小屋までは休憩なしでゆっくり登り、ここからは森林限界を抜けた素晴らしい景色を堪能しながらの登山となります。足元には、ハイマツと高山植物の花が目を楽しませてくれます。また、眼下に見える太平洋と海岸線も、なぜか見慣れぬ感じで面白いと思いました。登山道は傾斜を増し、かんらん岩の表面が風化したオレンジ色の岩石が剥き出しになった登山道をゆっくりと進みます。途中、かんらん岩からはんれい岩に移行する場所もあり、地質による風化に対する耐性が地形を決めている現場も見ることができました。

これまで登ってきた周囲に開けたハイマツ帯から、突然ダケカンバに覆われた見晴らしの悪い場所に変わると、そこが山頂でした。山のてっぺんは風が強く、ここだけダケカンバが生えているのは不思議です。山頂でゆっくりお弁当を食べようと思ったのですが、コバエのような虫が柱を作って飛んでおり、写真をそそくさと撮って下山しました。同じ道を帰っても面白くないので、帰りは、旧幌満お花畑経由の下山です。

登山口に戻ったのが、12時ちょっと前。せっかくなので、ジオパークのビジターセンターで展示を見せてもらいました。なかなか立派な展示で、幌満かんらん岩体の成り立ちや超塩基性植生のことを勉強することができました。この後、ビジターセンターの近くにあるアポイ山荘で汗を流し、帰路につきました。

アポイ岳

ベルモントフォーラムプロジェクト “Abandonment and rebound: Societal views on landscape- and land-use change and their impacts on water and soils (ABRESO) (PI: Tim White)”の枠組みでアメリカのニューハンプシャー大学から、大学院生のEric Parkerさんが来日しました。彼の地にあるLamprey川流域の物質循環を調べているEricさんのミッションは、同サイズの流域面積、同様な土地被覆・土地利用をもつ道東の別寒辺牛川で観測を行い、両流域を比較することです。どちらも人口減少を抱える地域で、開発とはベクトルの向きが反対の人為的影響が流域の水・物質循環に与える影響を考えるのが、冒頭に記したABRESOプロジェクトのテーマです。

3週間の滞在の最初になる7月28-30日は、北大 北方生物圏フィールド科学センターの柴田英昭教授と二人で、我々の観測点や採水地点を案内させていただきました。帰国までの3週間、環オホーツク観測研究センターのメンバーもサポートを兼ねて一緒に調査を行い、日米の共同研究を成功させたいと思います。

毎度のことながら、別寒辺牛川の調査に際しては、厚岸臨海実験所の皆様にお世話になりました。記してお礼申し上げます。

別寒辺牛川

本研究室は観測を中心とした研究方法を得意としていますが、現在所属する大学院生の2名はモデル構築に取り組んでいます。その1人、修士1年生の梅津晴希さんは、サロベツ湿原の水・熱収支モデルの構築を修士論文研究のテーマとしています。よりよいモデルを構築すべく、7月23-25日の三日間、サロベツ湿原の現地視察に出かけました。23日は、サロベツ湿原の熱収支モデル構築に取り組んできた北海道大学 北方生物圏フィールド科学センターの高木健太郎教授を訪ね、3時間あまりにわたって湿原の熱収支モデルについてご教示を賜りました。24日は、上サロベツと下サロベツで過去に水・熱収支の観測が行われた実験地を訪ね、植生や地下水の状況などの観察を行いました。この地では、過去にさまざまな先行研究が行われていますが、それらの論文の記述に比べると、当時高層湿原だったところには、さまざまな植物が侵入し、ミズゴケからなる高層湿原の特徴を徐々に失っているような印象を受けました。

今回の調査は天気に恵まれず、終始曇天続きだったため、楽しみにしていた湿原の背後に聳える利尻岳の勇姿を拝むことは叶いませんでした。湿原に秋が訪れたら、再び再訪したいという思いと共に、この大地を後にしました。

サロベツ原野

写真:下サロベツの幌延ビジターセンターの展望台から見たサロベツ原野。過去にさまざまな土地利用変化を被ってきたサロベツ湿原では、牧草地、湿原、乾燥化して笹が侵入した湿原などのモザイクがみられます

S. Fukumoto, S. Sugiyama, S. Hata, J. Saito, T. Shiraiwa and H. Mitsudera (2022) Glacier mass change on the Kamchatka Peninsula, Russia, from 2000 to 2016, Journal of Glaciology, pp. 1 – 14
DOI: https://doi.org/10.1017/jog.2022.50

北海道の永久凍土の分布とその動向を調べる一環として、低山の岩塊斜面に付随して発達する風穴と呼ばれる局所的な凍土を調べ始める研究を始めました。この課題に取り組むのは、環境科学院環境起学専攻の修士1年に在学する劉俊男さんです。5月の予察調査時には、手稲山の南斜面に発達する岩塊斜面の麓にある風穴の多くは積雪の下でした。7月になって積雪も無くなったので、今回はドローンを用いて風穴の冷気を熱赤外センサーで捉えることを試みました。

7月11日、曇天の中を劉さんのサポートとして調査に参加してくれた2人の大学院生と一緒に岩塊斜面への登山道を辿ります。この時期の札幌は本来ならば湿度の低い爽やかな天気に恵まれるのですが、今年は梅雨のような天候が続き、当日も湿度の高い蒸し暑い状況でした。それでも前半の登山道は琴似発寒川の清流に沿って続くため、沢の冷水で身体を冷やしながら登ります。琴似発寒川から離れると、登山道は急な尾根を辿るようになり、暑さが身体に堪えます。頑張って登ると、やがて傾斜が緩やかになり、ひんやりした空気が漂ってきます。この冷気は、風穴から噴き出るものだと思います。

いつ雨が降り出してもおかしくないような天気だったので、早速ドローンの支度にかかります。今回持参したドローンは、D J I社のMatrice 300RTKで、搭載するカメラはZenmuse H20Tと呼ばれる熱赤外センサーをもつカメラです。広角、ズーム、熱赤外イメージを同時に撮影できるので、風穴とその周辺の地形や植生との関係を捉えるには適したカメラです。比較的大きな機体なので、持ち上げるには苦労しますが、バッテリー容量が大きいため、長いフライトも可能なため、調査には有効な機材です。基準点に設置したG N S Sとの同時運用によって、リアルタイムキネマティックの測位ができるため、繰り返し撮影を行う際にも変化を正確に位置付けることが可能です。

残念なことに、セッティングが終了すると共に雨が降り出しました。大雨ではありませんが、防水された機材ではないので、計画していた合計2時間のフライトプランは諦め、重要なスポットをマニュアルで撮影しました。今回は、今冬にグリーンランドの調査で使用するM A V I C 3を大学院生の1人が持参したため、残りの時間は、この機材の習熟訓練を行いました。M A V I Cは大変使いやすいドローンで、当研究室でもM A V I C2 Proを各種調査に活用しています。

天気予報では、次第に雨が強くなる予報だったので、ドローンによる撮影を早々に切り上げ、風穴に温度測定のためのセンサーを設置する作業を行いました。冷気が噴き出している3個の風穴にそれぞれ温度センサーを設置しました。また、岩塊斜面上部の冷気が感じられない箇所にも参考のために2個の温度センサーを設置します。これらのセンサーは、10分インターバルで温度を記録できるので、風穴の温度が季節的にどのように変動するか記録してくれるはずです。

調査を終え、下山を開始すると雨が強くなりました。蒸し暑さに火照った身体には心地よい雨です。麓の駐車場に戻る頃には、全身ズブ濡れになりましたが、午前中の暑さでへばった身体を冷やすには、ちょうどよい雨となりました。

最後になりましたが、本調査を進めるにあたり、調査地を管理される王子木材緑化株式会社様には調査を許可してくださり、大変お世話になりました。記して感謝申し上げます。

別寒辺牛川

月齢によって異なる潮汐の変化が湿原河川の感潮域の河川流出・流入量に与える影響を1年間にわたって北海道東部の厚岸湖に流入する別寒辺牛(べかんべうし)川で追いかけています。昨年の10月初旬、今年の3月下旬に続き、今回は3回目の観測となります。河口からおおよそ1.4km遡ったRB3地点に側線を設け、この側線を通過する河川流量を係留型のADCP (Sontek IQ-plus)と移動型のADCP (Sontek M9)で観測します。今回は、中潮〜小潮〜大潮〜中潮へと至る一連の月齢における連続データを取得すべく、研究室の2人の大学院生(丁・竹内)が観測にあたります。加えて、厚岸湾、厚岸湖、RB2地点(カヌー中間駅)、RB3地点(カヌー出発点)の水位データも連続で観測し、潮汐変化が別寒辺牛川の水位と流量に及ぼす影響を地点ごとに明らかにしたいと思っています。このテーマは大学院生の丁曼卉さんの博士研究のテーマです。
 一方、大学院生の竹内祥太さんは、別寒辺牛川から厚岸湖・厚岸湾に流出する有色溶存有機物(CDOM)の起源とその濃度・フラックスの空間的・時間的変化の解明に取り組んでいます。BB3とRB1地点にCDOM濃度、クロロフィルa濃度、濁度を計測するセンサーを設置し、時間と共に変化するCDOM濃度の観測を行います。また、流域の各地点で、河川水を採水し、そのCDOM濃度を分析する計画もあります。加えて、湿原の土壌水を吸引し、地下のCDOM濃度の測定も実施します。2週間の長期観測となりますが、2人の研究が順調に進むことを願っています。
 今回の観測でも、これまで同様、北海道大学フィールド科学センター厚岸臨海実験所、厚岸水鳥観察館の2機関には大変お世話になりました。北海道大学北方圏フィールド科学センターの柴田英昭教授には、現地調査にご協力いただきました。国立環境研究所の中田聡史博士には、CDOM、クロロフィルa, 濁度測定のための計器をお借りしました。ザイレムジャパンの中田正人氏にはADCP (Sontek M9)のレンタルと運用でお世話になりました。本研究は、北海道大学 低温科学研究所 開拓型共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー(代表 長尾誠也 金沢大学)、およびベルモントフォーラム ABRESOプロジェクト(代表 T. White, ペンシルバニア州立大学)の一環として実施されました。上記の機関と個人に記してお礼申し上げます。

別寒辺牛川

2018年11月に開始した知床世界自然遺産のオホーツク海側の海岸漂着ごみ調査を今年も再開しました。この調査・研究は、知床財団との共同研究です。今回は、このテーマで博士論文の研究を進めている西川と、あたらしく修士課程に入学した伊原と私の3名での調査です。6月5日の出発当日は車のエンジントラブルで札幌に引き返すというハプニングがありましたが、車を換えて6月6日に再び知床に向かいました。6月7日は、我々の調査地でヒグマの生態捕獲調査があるということで、安全のため、羅臼側の海岸の調査を実施しました。知床岬にもっとも近い相泊の海岸から標津に至る海岸の目視観測です。6月8日はウトロ側の調査地であるルシャ湾に向かい、設置していたタイムラプスカメラのデータ回収と再設置、写真測量のためのGCPの設置と測位、Phamtom 4RTKを用いたSfM-MVS写真測量、そしてMatrice 300RTKに搭載したサーマルイメージャーによる熱赤外画像の撮影を実施しました。6月9日は、より広範囲の海岸を対象に同様な作業を繰り返し、6月10日は漂着ごみの計量調査を実施して、ほぼ予定していた作業を終えることができました。これらの現地調査と並行し、知床のウトロで漂着ごみ問題に取り組む何名かの方々とミーティングを行い、研究成果と実際のごみ問題の解決をつなげる方策について意見交換を行いました。
 調査地では、昨年の晩秋から今冬にかけて、 高い波浪が生じたようで、2018年11月にこの調査を開始して以降、最大の地形と漂着ごみの変化が起こっていました。今後は得られたデータの解析を進め、漂着ごみの質量収支変化を明らかにします。次回は9月中旬以降の調査を予定しています。
 なお、本研究の実施にあたっては、環境研究総合推進費による課題「世界自然遺産・知床をはじめとするオホーツク海南部海域の海氷・海洋変動予測と海洋生態系への気候変動リスク評価(代表 三寺史夫)」を使用させていただきました。

知床海岸20220610

今年度に入学した修士1年生の修論テーマとして、UAVに搭載された熱赤外センサーを用いて、低地に発達する局所的な永久凍土として知られる風穴の調査を行うことになりました。風穴は、北海道の各所に存在することが報告されており、その維持機構についてはいくつかの先行研究があります。我々は、北海道のいくつかの岩塊斜面を対象に、サーマルイメージャーとよばれる赤外線を利用した機器で、上空から地表面の放射温度を測定することで、広い岩塊斜面でどこに風穴が発達するのかを解明したいと考えています。現在は調査対象地域で調査を行うための各種許可を申請しています。許可が得られ次第、これらの岩塊斜面を対象に調査を開始します。

手稲山南面に発達する岩塊斜面

低温科学研究所が推進する共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー」(代表: 長尾誠也 金沢大学)の一環として、3月24日から27日にかけて今年最初の別寒辺牛川の流量観測を実施しました。別寒辺牛川、厚岸湖、厚岸湾、沿岸親潮を対象とした川と外洋をつなぐ物質の流れを捉えるための観測です。昨年の10月5日〜7日の3日間にわたって観測を行った最下流部の観測断面(RB3)に超音波ドップラー流速プロファイラー(Sontek IQ plus)を設置し、3月24日17:00から3月26日14:00までの小潮時に5分インターバルで流量データを測定しました。この観測に加え、3月25日と3月26日の下潮時に超音波流速計(Sontek RiverSurveyor M9)を用いて横断面の流量観測を行い、インデックス法を用いることでIQ plusで取得した流量の時系列データを補正しました。その結果、観測期間には約1,000,000立法米/日の淡水流出があったことが判明しました。昨年の10月初旬の大潮時には、降雨直後だったこともあり、約2,000,000立法米/日の流出量がありましたので、今回の流出量はおおよそ半分であったことになります。実は、今回の観測は春の融雪洪水を狙って計画したのですが、観測を行った3月24-26日は、まだ融雪があまり進んでおらず、むしろ冬季の終わりを代表するような流況でした。3月26日の夜半に低気圧が道東を通過したことにより激しい風雨がありました。その結果、3月27日には河川流量が増加したことを現地で確認しています。ただし、この河川流量の増加によって、本流と支流の上流から、たくさんの氷塊が流下を始め、カヌーで観測を実施するにはあまりに危険な状態となりました。このため、増水以降の流量データは観測できていません。融雪洪水時の流量観測は今後の課題です。
 この河川観測には、北海道大学低温科学研究所、北海道大学北方圏フィールド科学センター、同厚岸臨海実験所に関わる研究者と学生が参加しました。観測にあたっては、厚岸水鳥観察館の皆様にたいへんお世話になりました。記して感謝申し上げます。

別寒辺牛川と支流の大別川の合流点の空撮画像:大別川上流から流れてきた河氷がJR根室本線の橋脚で堰き止められている状況

新年明けましておめでとうございます。
札幌は年末から降り始めた雪で、すっかり白い街に変わりました。毎日低温が続いており、北海道らしい新年の始まりです。

コロナウィルスとの付き合いも、そろそろ2年になります。オミクロン株の市中感染が各地から報告されており、まだまだコロナウィルスに翻弄される日々が続きそうですが、これまで学んだコロナウィルスの性質を理解して、感染対策を続けながら、できるだけ通常の生活に戻っていきたいと思っています。

来月には2名の修論生が修士研究を発表すべく、最後の追い込みにかかっています。2名の博士課程の学生は、2022年度中の博士論文の提出を目指して、解析を続けています。修士1年生の二人は、正月休みを山で過ごしたようです。4月には、新たに2名の修士学生を研究室に迎える予定です。個性豊かな学生が研究活動に専念できるよう、できるだけのサポートをしていくつもりです。

研究室では、1月下旬の道東での結氷河川の観測を皮切りに、今年も積極的に野外での観測・調査を行います。3月は融雪出水をとらえるべく、同じ道東の河川で観測を行います。4月になると、山の雪も落ち着いてきますので、昨年から始めた羊蹄山山頂の永久凍土調査の開始です。6月には知床半島の調査地にもアクセスができるようになりますので、海岸漂着ごみの調査が開始される予定です。

このような感じで、今年も当研究室では、北海道の各地で研究を継続します。そして、コロナ禍が落ち着いたら、いよいよ中断していたロシア極東での観測活動の再開です。

今年もよろしくお願いいたします。