Archive for the ‘schedule’ Category

北海道大学大学院環境科学院北極域研究センター低温科学研究所水産科学院等と連携して実施している「北極・南極学カリキュラム」のプログラムのひとつであるスイス氷河実習に今年も引率教員の1人として参加しました。9月22日から10月5日の2週間、11名の大学院生と共にスイス連邦工科大学で講義を受け、スイス各所で氷河と地形について学びました。今年は、参加者が日本、中国、ドイツ、フィンランドと多様な国籍をもつメンバーでした。天候に恵まれ、参加して下さった大学院生の皆さんには、スイスの大自然を満喫してくださったものと思っています。詳しくはこちらのページをご覧ください。

2週間の実習中に1日だけある自主研修日は、ツェルマットのマッターホルン山(標高4478m)の基部にあるヘルンリ小屋を訪ねました。このハイキングルートをを辿るのは今回で5回目ですが、歩くたびに発見があり、地形や地質に興味のある方にはとても楽しいルートです。ここは、アフリカ大陸の一部とされるアピュリア地塊が新生代古第三紀にヨーロッパに衝突した現場であり、ツェルマットからヘルンリ小屋に至るルート上では、衝突前に二つの大陸の間にあったテーチス海の海底に堆積した砂岩などの堆積岩からマントル起源の蛇紋岩が露出しています。ヘルンリ小屋より上のマッターホルンを作る岩石は、ダンブランシュナップと呼ばれ、アピュリア地塊がユーロッパの上に衝上した片麻岩です。ロープウェーの終点であるシュバルツゼーからヘルンリ小屋までの2時間あまりのハイキングルートを辿ると、これらの地質の変化と、岩石の硬さに応じた地形の変化が素晴らしく、今回も快晴の天気の中、気持ちの良いハイキングができました。

マッターホルン

下山路は、往路を辿らず、テーチス海の堆積物の上端からスタッフェルアルプに直接下るルートを辿りました。ザレた斜面をジグザグに下る単調なルートですが、マッターホルン北壁を背に、前方に広がるダンブランシュ、オーバーガーベルホルン、チナールロートホルン、ヴァイスホルンといったマッターホルンと同じアピュリア地塊起源の鋭峰を望む素晴らしいルートです。スタッフェルアルプ以降はツムット川をダムサイトで左岸に渡り、ツムット村に向かいます。ツムット村は小さな集落で、きっと昔のツェルマットはこんな感じだったのだろうと思わせる静かなところです。なぜか、私はこの周辺を歩くたびに、学位論文の頃に滞在したネパールのランタン村を思い出して懐かしい気持ちでいっぱいになります。

ツムット村からツェルマットへは、今回、”KULTURWEG”と呼ばれるルートを歩いてみました。通常のルートはツェルマットに向かって徐々に降っていくのですが、このルートはツェルマットまで谷の左岸を高巻くような水平道です。谷の上のほうからツェルマットを見下ろせる道なので、ぎっしりと建物が密集したツェルマットの町がよく見えます(写真)。こんな急峻な高峰に囲まれた深い谷底に立地するツェルマットは果たして安全な町なのだろうかと不安になるのは、実習中に発生したネパールの土石流災害の後だからでしょうか。

年々後退していくスイスの氷河とネパールで発生した想像を絶する土石流という二つの現象に、氷河を有する急峻な高山を有する国の今後について考えさせられる1日でした。長きにわたって氷河を原因とする災害に向き合い、多くの知見と技術を獲得したスイスの経験が、その他の国々の氷河災害に活用される日が1日も早く訪れるようにと願うばかりです。

ツエルマット

京都大学 生態学研究センターで開催された第377回 生態研セミナーにて、「オホーツク海を取り巻く陸と海の物質的つながり」と題して講演させていただきました。こちらの研究所でお話させていただくのは、2014年5月16日に開催された第256回以来です。会場とオンラインで参加された皆様に、2014年以降に明らかになった巨大魚附林仮説をとりまく3つのトピック(カムチャツカとアラスカにおける河川水による沿岸海域の塩水希釈;アムール川流域の永久凍土と溶存鉄溶出過程との関係;北海道の湿原における溶存鉄の溶出過程)を紹介しました。セミナーにお誘いくださった同研究センターの谷内茂雄先生と、お忙しい中ご参加くだった皆様にお礼申し上げます。

京都滞在はずいぶん久しぶり。札幌から訪れると頭がクラクラするような気温でした。訪れた17日はおりしも祇園祭の宵山。せっかくの機会なので、この伝統あるお祭りを少しでも味わいたいと思いましたが、あまりの暑さにホテルのテレビで楽しみました。すっかり寒冷地仕様になった身体には厳しい京都の夏でした。

生態学研究センター

6月の第一週、研究室に所属する博士課程大学院生の西川さん、伊原さん、修士課程大学院生の朝比奈さんと一緒に知床半島の漂着ごみ調査に出かけました。現地でのヒグマをはじめとする野生動物に対する安全対策のため、ガイドの金森春菜さんにご同行いただきました。
 2023年と2024年の調査を実施した知床岬の啓吉湾でまず調査を実施し、その後、ポロモイとアウンモイ地区で調査を行いました。ポロモイとアウンモイ地区は2025年に続く2回目の調査でした。引き続き、長年調査を実施しているルシャ地区で調査を行う予定でしたが、南東の風による波浪のため、ルシャ地区にアクセスすることは叶わず、残りの日々はウトロから斜里にかけての海岸と羅臼から標津にかけての海岸において漂着ごみの調査を実施しました。
 複数回調査を実施している場所では、漂着ごみ分布に変化が見られ、今後の解析が楽しみです。

啓吉湾2026

道北の湿原表面の水文状態にみられる季節的な変化を空撮画像から解析すべく、1泊2日の短い日程で撮影に出かけてきました。札幌を朝発って、目的の湿原に到着したのが14:00。天気は良いものの、風がやや強く撮影条件としては難ありでした。翌日もやや強い風が予想されていたので、ほぼ1時間かけてSfM-MVS写真測量に必要な撮影を実施しました。
 海岸部の宿で目覚めた翌朝はやはり強風。今日は難しいかなと思っていましたが、湿原に着くと穏やかな天気でした。前日よりも良い条件です。再び1時間ほどかけて、Matrice 300RTKとZenmuse P1カメラを用いて4000枚ほどの空中写真を撮影。これまで季節を変えて同様な撮影を行なって来たので、これらの画像を用いて湿原表面の季節変化とそれにともなう水文条件の変化を解析する予定です。この課題に取り組むのは、この4月から当研究室のメンバーとなった永井啓宇さん。大学時代に地理学を専攻し、大学院ではその知識を活用しながら、湿原の表面変化とそれに及ぼす環境要因との関係を調べます。ちょっと忙しい調査でしたが、春の北海道を満喫してくれたことと思います。

丸山湿原

毎春開講している北海道大学大学院共通授業科目「北極・南極学特別実習Ⅲ(野外行動技術実習)」に参加しました。この実習は野外でフィールドワークに携わる大学院生に野外調査の基礎技術としての読図、ロープワーク、観天望気、救命救急、ナビゲーション、安全対策などの実技を学んでいただく実習です。天候に恵まれた二日間、札幌の手稲山中腹にあるパラダイスヒュッテを拠点とし、42名の大学院生がこれらの技術を学びました。この中から多くのフィールドワーカーが巣立ってくれることを期待しています。

野外行動学実習

今年度最初の野外調査は北海道北部の猿払川とその沿岸でした。早いもので、今年度は令和6年度に開始した王子ホールディングスとの共同研究の最終年度。猿払川が輸送する溶存鉄が沿岸域の基礎生産に与える影響を明らかにし、森林・湿原を有する河川流域が沿岸域に及ぼす生態系サービスを可視化する試みです。さらに、ネイチャーポジティブの視点から沿岸域の生物生産に及ぼす湿原の経済的価値を試算することも試みます。そのためにも、湿原に源を持ち、猿払川が輸送する溶存鉄が河口から沿岸域にかけてどのような生物化学的過程を被り、どこまでどの程度輸送されるのかを明らかにしなければなりません。昨年度は7月の渇水期に沿岸での海水試料採取を行い、渇水期には河川の沿岸海水に与える影響が限定的であることを明らかにしました。そこで、今年度はまず最初に河川の流量が1年を通じて最大になる融雪洪水時期を狙い、岐阜大学と秋田県立大学の共同研究メンバーとともに早春の猿払村を訪ねました。
 今回も船を出していただくのは浜猿払の横山船長です。あいにく、我々が訪れた4月第一週は、天候状態があまり良くなく、船を出せるチャンスが少ないだろうという事前情報を得ていました。猿払村に到着した翌日の早朝だけが限られたチャンスであるという横山船長の言葉を信じ、早朝に港を出発し、およそ5時間で予定していた40地点の海水試料の採取を終えることができました。港に帰る途中から風が強くなり始め、その後数日間は強風が吹き荒れていたので、横山船長の的確な判断には感謝の言葉しかありません。
 残りの期間は、猿払川本流の各所で河川水の採取を行いましたが、残雪の上に残された巨大なヒグマの新鮮な足跡に一同戦慄を覚えつつ、5日間の調査を終えることができました。観測・調査にあたり、猿払漁協の木原さん、横山船長、そしていつもお世話になっている笠井旅館のご夫妻、王子ビジターセンターを利用させてくださった王子木材緑化株式会社旭川営業所には厚くお礼申し上げます。

2025年度修了生

2025年度は当研究室から修士課程5名、博士課程1名の大学院生が無事にプログラムを修了し、社会に巣立つことになりました。皆さん、おめでとうございます。新しい世界で更なる飛躍を遂げられることをお祈りしております。

2025年度修了生

猿払川で実施している水位観測のデータ回収と機器のメンテナンスのために、10月15-17日の日程で出かけてきました。猿払川は2級河川のため、北海道開発局による流量観測が行われていません。北海道総合振興局稚内建設管理部が水位を観測していますが、データは公開されていません。我々の研究目的は、湿原を起源とする溶存鉄が猿払川流域で河川に流出し、それが河口から沿岸域に供給される結果、どの程度、沿岸域の基礎生産に用いられているのかを評価することです。そのためには、猿払川の各所の流量を求め、溶存鉄濃度と掛け合わせることで、猿払川から沿岸に流出する溶存鉄のフラックスを年間を通して求めたいと思っています。

記録された水位データを見ると、春の融雪洪水とは別に、この夏は8月初旬から9月下旬にかけて、何回も春の融雪洪水を上回る出水があったことがわかりました。宗谷地方を襲った大雨による洪水です。河口域の水位データと一緒に測定している河川水の電気電動度のデータを見ると、このような洪水時には、潮汐による塩水遡上は河川水の流出によって停止し、持続的に沿岸域に大量の淡水が供給される様子がわかります。猿払川のように小さい流域の河川は、このような洪水イベントが沿岸域に大きな影響を与える機会なのかなと推定しています。ですから、融雪期や夏の大雨による洪水時の湿原や河川、そして沿岸の状態をより詳しく観察・観測することが必要であると思います。

秋の湿原はいろどり鮮やかで、静寂に包まれています。1人での観測はヒグマとの遭遇に怯えながらの作業です。ドライスーツで身を固めても水の冷たさが堪える時期になりましたが、結氷の直前までこの観測は継続したいと思っています。

湿原の秋

今年も、北海道大学大学院 環境科学院の国際南極大学カリキュラムのひとつに位置付けられているスイス氷河実習に引率教員として参加させていただきました。
 杉山慎教授をリーダーに、私と大学院生8名(北海道大学大学院、千葉大学大学院、東京大学大学院、総研大学大学院)の総勢10名が8月23日から9月6日にかけて、)スイス連邦工科大学における氷河に関する講義受講; 2)ベルナーオーバーラントでの下グリンデルワルド氷河とアレッチ氷河の観察、ならびにユングフラウヨッホ高地観測所訪問; 3)ローヌ氷河における氷河・気象・水文観測実習; 4)ゴルナーグラートからのポリサーマル氷河の観察; 5)観測結果の報告ならびにスイス連邦工科大学における氷河と気候に関する講義受講、という5つのプログラムをこなしました。
 天候は晴れたり、曇ったり、雨が降ったりと、なかなか不安定な年でしたが、スイス・アルプスの雄大な景色を堪能することができました。大学院生も、スイスの氷河、山、スイス連邦工科大学でのキャンパスライフなどを満喫できたと思います。2024年に引き続き、氷河は後退を続けています。

ローヌ川水文観測

Ding, M., Shiraiwa, T. and Nakata, M. (2025) A simple approach for estimating freshwater discharge from a wetland stream flowing into a Brackish Lake. Journal of Hydrology: Regional Studies, 61, October 2025, 102666, https://doi.org/10.1016/j.ejrh.2025.102666