新しく始まる研究プロジェクトの準備で、一昨年から予察的な観測を行なっている道北の猿払川を訪ねました。湿原河川は流出する海洋沿岸域の基礎生産にどのような貢献をしているのか?という興味から、猿払川ではこれまで溶存鉄や栄養塩濃度の観測を行なってきましたが、このプロジェクトでは、これらの陸域起源の物質の貢献をより定量的に見積もることを試みます。まず手始めに、湿原と河川との間での表層水・土壌水・地下水を通じた物質輸送を明らかにすべく、中流域の小さな湿原に着目し、昨年から観測を始めました。今後は、この観測を流域全体に拡張し、湿原流域が河川流出を通じて海洋沿岸域の基礎生産に果たす役割を解明したいと思っています。
今回の観測には修士課程1年の澤田隼輔さんと岩堀佑さんが参加しました。これから進める修士研究に向け、まずは流域全体の観察と水質観測、およびドローンを用いた対象湿原の空中写真撮影を実施しました。現地観測にあたっては、入林許可を下さった王子木材緑化株式会社、道道上猿払浅茅野線の通行許可をくださった稚内建設管理部、そして滞在でお世話いただいた笠井旅館に感謝申し上げます。
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2024年6月下旬に調査許可をいただいて知床岬周辺の海岸に堆積する漂着ごみと、その沿岸海底に堆積する海底ごみの探査を目的に、知床に出かけてきました。今回は、博士課程の西川と伊原、修士課程の小林と坂口が同行メンバーです。それぞれ、テーマを持って知床半島を舞台に博士研究と修士研究に取り組んでいる当研究室のメンバーです。
知床岬は知床国立公園の特別保護地区に位置しており、徒歩による入域を除き、立ち入りや宿泊が禁じられています。今回は近接する避難港である文吉湾への入港を許可していただき、漁船をチャーターして上陸しました。滞在中は、オコツク漁業生産組合のご厚意で、文吉湾の番屋の倉庫をお借りして調査拠点としました。
調査内容は、文吉湾から知床岬にかけての海岸をドローンで空撮し、漂着ごみの分布状況を調べることを第1の目的とし、これに付随して、昨年、詳細な調査を行った啓吉湾の漂着ごみの計量を実施しました。また、今回初めての試みとして、カシュニの番屋から知床岬にかけての数地点において、浅海底に堆積したごみの様子を水中ドローンで撮影しました。また、これらの海岸に点在する漁業小屋である番屋の現状を調べる調査も実施しました。
滞在中はこれ以上ないほどの晴天に恵まれ、参加者全員がこの素晴らしい自然に感動するとともに、次世代にこのままの形で引き渡したいという思いを強く持ちました。本調査を実施するにあたり、漁船を運行していただいた第十八晃洋丸の菊池船長、我々の活動と野外での安全をサポートしてくださった知床アウトドアガイドセンターの関口さんご一家には心より感謝申し上げます。
今年も知床半島の雪が融けて入域できるようになったので、2019年からモニタリングを継続している海岸に大学院生3人と出かけました。今年は漂着ごみに加え、海底に堆積したごみを探査するための科学研究費が採択されたため、水中ドローンを用いる調査も開始しました。京都大学からは、環境法をご専門とされる共同研究者の島村教授にご参加いただき、自然保護区内の海岸漂着ごみの処理について検討していただきました。
2日間の短期間ではありましたが、天気に恵まれ、予定していたモニタリングと海中のごみ探査は完了しました。次は6月下旬の船舶を用いた半島先端部での調査となります。今回も知床アウトドアガイドセンターの関口さんご一家にはたいへんお世話になりました。また、無線機を貸与してくださった知床財団、林道を使用させてくださったオホーツク総合振興局網走建設管理部と北海道森林管理局知床森林生態系保全センターにも感謝申し上げます。
潮汐の影響をうける低平な湿原河川において、橋のない下流部で洪水時に流量を正確に測定する方法を考えています。今回は、UAV(いわゆるドローン)を用いて、河川上空の1点から河川表面を一定時間連続撮影し、画像の時系列データから表面の流速を測定することを試みました。初日は風が強く、河川表面に風による波が立ったため、画像から流速を判読するのは困難な印象を持ちました。二日目は風も止み、上空からの映像に河川を流下する不均質な濁りのパターンが見えたので、これを利用して画像マッチングの技術で河川の流速を見積もることができそうでした。
短時間の間にADCP、電気伝導度計、クロロフィル濃度計、濁度計などを設置する慌ただしい観測でしたが、得られたデータの解析を行い、次回の観測につなげたいと思います。今回は研究室の雫田さん(M2)と川野さん(M1)の修士研究としての観測でした。北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所、および厚岸水鳥観察館の皆さんには今回も大変お世話になりました。記して感謝いたします。
当研究室の主要な調査地である道東の別寒辺牛川に大学院生と出かけました。1人はこの川で懸濁物質の挙動を調べている修士2年の学生です。もう2人は、この4月に環境科学院に入学した修士1年生でした。この川では、すでに過去6年間にわたって河川水の流出特性、溶存・懸濁態シリカ濃度、有色溶存有機炭素(CDOM)濃度などの観測を行っており、これらの物質の動態と厚岸湖との間での流出入を調べることが大きな目標となっています。3月初旬に観測を実施した際には、まだ積雪が残っており、林道を用いた採水地点の移動に苦労したようですが、今回は積雪も消え、ぬかるんだ林道にタイヤをとられてヒヤヒヤしたものの、晴天に恵まれて順調に観測を行うことができました。初めて使用するクロロフィルa濁度計のデータと合わせて、懸濁物質濃度やCDOM濃度のデータを解析することが当面の課題ですので、頑張って分析・解析を進めてもらいます。今回も北海道大学の厚岸臨海実験所ならびみ厚岸水鳥観察館の皆様にはお世話になりました。また、国立環境研究所の中田聡史博士には、観測機器の貸与などでたいへんお世話になりました。これらの方々に記してお礼申し上げます。
令和6年度が始まりました。今年は5人の修士1年生が当研究室に加わりました。今年度第1回目のセミナーを終了した後、集合写真を撮りました。当研究室の現在の大学院生数は、博士課程が3名、修士課程が8名です。
今年は4つの研究テーマに沿って研究と教育を行います。これらのテーマを貫くキーワードは「陸と海をつなぐ地理学」です。
1. 別寒辺牛川から厚岸湖への水・物質流出
2. 猿払川の湿原における河川水形成
3. 知床半島の海洋・海岸漂着ごみ
4. 気候変動が山岳永久凍土に及ぼす影響
このうち3番目の知床半島の研究に関しては、科学研究費 基盤研究(C)「自然保護区の海岸に分布する漂着ごみ問題の解決に向けた学際的研究」(研究代表者 白岩)が採択されましたので、令和6年度から3ケ年にわたって、研究分担者の京都大学法学研究科教授の島村健さんや大学院生の皆さんと一緒に研究を進めます。
今年はフィールドでどんな驚きや発見が待っているのか? 事故や怪我のないよう安全に最大限の注意を払って、研究を進めて参ります。
3月上旬に観測地を訪ねた際に切断されていた地温計のケーブルを交換するために、3月30日に再び猿払川中流の湿原をひとりで訪ねました。今回は徒歩での訪問。雪に覆われた林道をおよそ6km歩いて、観測地に到着。積雪上には冬眠から目覚めたヒグマの足跡が残っておりました。前回は1mほどあった積雪も、この1ケ月で40cmほどに減っており、交換のために持参した地温センサーを無事に設置することができました。
3月初旬に訪ねた際には、まだ厚い積雪に覆われて川面の見えなかった猿払川も、中心部に凍結部を残して両岸付近では融解水が流れ始めていました。長い冬から目覚めた猿払川。これから初夏にかけて、イトウが遡り、本流・支流の各所で産卵が始まります。次の観測は5月上旬です。
昨年から観測を行っている道北の湿原を訪ねました。この時期、湿原に隣接する道路は閉鎖されているため、アクセスは徒歩かスノーモービルとなります。観測に必要な機材を徒歩で運ぶことは難しく、今回は地元の方にお願いしてスノーモービルを使用しました。到着した湿原はおおよそ1mの積雪に覆われていましたが、幸い、我々が設置した4本の井戸は頭を10cmほど積雪から出しており、すぐに位置を確認することができました。さっそく井戸から地下水を採取しました。地温計を掘り出してみると、残念ながら8本のセンサーのうち、5本のセンサーケーブルが切断していました。記録を見ると、2月中旬に切断が生じたようです。おそらくは2月中旬の暖気によって急速に融雪が進み、その際、データロガーを保管しているクーラーボックスが転倒し、これによってケーブルに大きな力がかかって破断したものと思われます。幸い、昨秋からの連続データは保管されていましたので、冬季の湿原内部の温度分布を観測することに成功しました。今は、できるだけ早く観測地を再訪し、地温計の再設置を行うべく準備を進めているところです。
アムール川がオホーツク海に輸送する溶存鉄の供給源として、永久凍土をもつ湿地が重要であり、気候変動によって永久凍土が変化することによって河川に流出する鉄も変化する可能性があることを現地での観測から見出し、論文として出版しました。
どう変化するかを更に突き止めようと、新たな調査計画を練っている時に、コロナ禍が始まり、更にはロシアのウクライナ侵攻が起きました。当面、ロシアでの現地調査は無理と判断し、代替地として季節凍土が発達する北海道の湿地に目をつけ、民間企業の保有する道北の湿地を実験地として使わせていただけることになり、この一週間、岐阜大学と名古屋大学の研究者と共に湿原を掘削し、4本の井戸を設置しました。これから数年にわたり、これらの井戸の地下水と河川水を定期的に採取して、積雪や凍結が溶存鉄流出に及ぼす影響を調べます。
今年度から環境科学院環境起学専攻の修士1年生としてセンターの活動に参加して修士研究を開始した雫田さんの最初の野外観測として、道東の別寒辺牛川流域を訪ねました。過疎化が進む中山間地の活性化に興味を持っている雫田さんが模索するテーマは、河川における懸濁物質の挙動です。今回は最初の調査ということもあり、マルチ水質計(YSI Pro DSS)を使用して、流域の広範囲にわたって降雨後の濁度、pH、溶存酸素濃度、電気伝導度、水温等の測定を実施し、湿原河川の懸濁物質研究の焦点を絞るための基礎データを収集しました。天気に恵まれ、参加者は初夏の湿原を満喫できました。観測にあたっては、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所(所長 仲岡雅裕教授)と厚岸水鳥観察館にお世話になりました。記して感謝申し上げます。