東京書籍が発行する高校社会の教育情報誌 ニューサポート高校「社会」vol.36(2021年秋号)に、「地理用語としての造山帯の退場」というコラムを書かせていただきました。
低温科学研究所が推進する共同研究「陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー」(代表: 長尾誠也 金沢大学)の集中観測が北海道の厚岸にて行われました。別寒辺牛川、厚岸湖、厚岸湾、沿岸親潮を対象とした川と外洋をつなぐ物質の流れを捉える観測です。我々河川班は、別寒辺牛川の最下流域において、別寒辺牛川と厚岸湖の間の水・物質収支を10月5日〜7日の3日間にわたって観測しました。この河川観測には、北海道大学低温科学研究所、北海道大学北方圏フィールド科学センター、金沢大学、国立環境研究所、ザイレムジャパン株式会社が参加し、河川流量、各種溶存化学物質、懸濁物質などの測定を行いました。天候に恵まれ、観測は成功裡に終了しました。観測にあたっては、厚岸水鳥観察館の皆様にたいへんお世話になりました。記して感謝申し上げます。

環境省、文化庁、後志総合振興局から研究に必要な各種許可をいただいたので、修士1年飯田幹太さんの修論研究、羊蹄山山頂における永久凍土探査の研究が始まりました。永久凍土の存在を確認するためには、大地に縦孔をあけ、その中に温度計を設置して1年間にわたって温度を計測する必要があります。ある深度で、もし1年間にわたって氷点下の温度が記録されれば、それが永久凍土です。地表面下の地温は、大気からの熱と、地球内部からの地熱の二つのバランスで決まります。北海道のような寒冷地では、冬季の冷たい大気によって地表面は凍結しますが、春になると日射によって融けてしまいます。このような凍土は、季節凍土とよばれ、永久凍土とは違います。寒冷地とはいっても、夏には気温が上昇し、地表面から地下に向かって融解が進行します。ですから、もし永久凍土があるとすると、夏の融解が到達しない深さにあるはずです。これが5mなのか、10mなのかは、その場所の気温の季節変化と大地を構成する物質の熱伝導率によって変わってきます。ですから、10mくらい縦孔をあけ、その中に地温計を設置することで、地下の温度を計測する必要があるのです。
秋晴れと紅葉に恵まれた第1回目の調査では、重い掘削機材と掘削に必要な20Lの水を山頂に持ち上げました。コロナ禍で羊蹄山での宿泊ができないため、作業は日帰りとなります。短い作業時間を効率よく使い、気温計1ケ所と深度1mの地温計を2ケ所設置しました。安山岩でできた大地はなかなか掘削が難しいこともわかりましたので、10mの掘削は来春までの継続作業となるでしょう。まもなくやってくる初雪の前にできるだけ作業を進めるべく、好天を逃さないよう作業を続ける予定です。

羊蹄山はスキーリゾートとして有名なニセコエリアにある標高1,898mの成層火山です。この羊蹄山の山頂付近にはアースハンモックやソリフラクションローブなどの周氷河地形が発達し、一部には風衝砂礫地も見られることから、永久凍土が存在する可能性が指摘されていますが、その存在を確認した報告はありません。当研究室では、今年から研究室に加わった大学院生の修士論文のテーマとして、羊蹄山の山頂において永久凍土の存在を確認することを試みます。研究方法としては、1)ドローンを用いたSfM-MVS法による周氷河地形のマッピング、2)ドローン搭載型サーマルカメラを用いた山頂の地表面温度の不定期モニタリング、3)気温計・地温計による表層温度の通年モニタリング、4)浅層掘削による永久凍土の探査、の4つを計画しています。
温暖化でさまざまな環境が変化する中、山岳永久凍土はもっとも鋭敏な気候変化のセンサーとして世界中の山岳域でモニタリングされています。北海道でも大雪山や知床、然別湖付近で永久凍土の調査が進んでおり、羊蹄山の山頂でのモニタリングを加えることで、北海道の高所で進行する気候変化の実態が捉えられることを期待しています。
7月8日から14日にかけて、大学院生の3名と共に道東の別寒辺牛(べかんべうし)川水系において水文観測を実施しました。火砕流台地の根釧原野を刻んで流れる水系です。低平な中・下流部は広大な湿原域となっており、潮汐の影響を受けるため、湿原の湛水機能とあいまって、流出過程が複雑な河川です。
今回は、これまで維持してきた下流域の別寒辺牛川橋の水文観測点(RB1)において水位観測を再開すると共に、その上流に合流する3支流であるトライベツ川(RT)、別寒辺牛川本流(RB0)、チャンベツ川(RQ)に水位観測点を設置することを主目的としました。また、国道44号線が別寒辺牛川と交わる地点(RB2)にも水位計を設置しました。これらの地点において、H-Q曲線を作成することで、通年にわたる流出量を求めようと考えています。RB1では、これまでも実施してきたように、滞在期間中のみ、ADCPを係留して、水位、インデックス流量、流量を10分インターバルで測定しました。
これらの作業を行う一方、別寒辺牛川水系の広域において、溶存・懸濁態シリカ分析用の採水、ならびにCDOMの測定を実施しました。最終日には、RB1から水鳥観察館までをカヌーで航行し、連続的なCDOMと水温・塩分のデータを取得することもできました。
次回は9月初旬と10月初旬に現地観測を実施する予定です。
いつまでもずるずると続くコロナ禍によって大きく影響を受けている当研究室の野外調査ですが、6月20日に北海道を対象とした緊急事態宣言が解除されたことを受け、道内を対象とするものに限って再開しました。まずは、知床世界自然遺産内の海岸に漂着するゴミのモニタリングです。この調査は、修士2年の西川の修士研究テーマです。2018年11月に開始したモニタリングも2年半が経過し、漂着ゴミの内容と時間的な挙動がすこしずつわかってきました。今回の調査は、2020年の晩秋から2021年の春にかけて、どのような変化が起こったか調べることが主目的でした。方法は、ドローンを用いたSfM-MVS法による漂着ゴミの形状の測定、およびインターバルカメラを用いた写真データ解析です。
あいにく、出発直前に測量の主力機であるDJI社製Phantom 4RTKが故障するというハプニングがあり、新しく導入したDJI社製Matrice 300RTKとZenmuse H20Tだけでの作業となりました。幸い、天気に恵まれ、予定していた写真測量は無事に終了。この冬に予想以上に海岸の状況が変わったようで、3台設置していたインターバルカメラのうち、1台が流出していました。残っていた2台のカメラには無事に1時間毎に撮影された映像が記録されていましたので、冬の間に海岸に起こった変化の解析が楽しみです。
調査は6月25日から6月29日まで実施しました。新たに研究室に加わった山岳部出身の2人の強力なサポートを受け、これまでできなかったゴミの計量も実施することができ、実りの多い調査となりました。次は8月末から9月頃に再調査の予定です。
Shi, M., Shiraiwa, T., Mitsudera, H. and Muravyev, Y. (2021) Estimation of freshwater discharge from the Kamchatka Peninsula to its surrounding oceans. Journal of Hydrology: Regional Studies, 36, August 2021, 100836, https://doi.org/10.1016/j.ejrh.2021.100836
コロナウィルスの蔓延で大きく混乱した2020年度が終わり、2021年度が始まりました。昨年度は、当研究室が得意としている野外調査にも制約があり、海外調査は実施できず、北海道内の調査のみ行うことができました。今年度は、新しく採択された環境省の環境研究総合推進費による課題「世界自然遺産・知床をはじめとするオホーツク海南部海域の海氷・海洋変動予測と海洋生態系への気候変動リスク評価(代表 三寺史夫)」、ベルモントフォーラムプロジェクト “Abandonment and rebound: Societal views on landscape- and land-use change and their impacts on water and soils (ABRESO) (PI: Tim White)”、科研費基盤研究(B)「表層と中層をつなぐ北太平洋オーバーターン:大陸からの淡水供給を介した陸海結合系(代表 三寺史夫)」、低温科学研究所共同利用 開拓型研究「陸海結合システム: 沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー(代表 長尾誠也)」にそれぞれ共同研究者として参加し、研究室の大学院生とともに研究を進めることになりました。
研究室には、新しく2人の修士1年生を迎え、博士課程2名、修士課程4名の6名の大学院生がそれぞれのテーマで研究を進めます。上記のプロジェクトにも積極的に参加してもらい、北海道、ロシア、そしてアラスカという寒冷圏の陸面・水循環研究や海岸漂着物の研究を進めていきます。
Tashiro, Y., Yoh, M., Shiraiwa, T., Onishi, T., Shesterkin, V. and Kim, V. (2020) Seasonal Variations of Dissolved Iron Concentration in Active Layer and Rivers in Permafrost Areas, Russian Far East, Water 2020, 12(9), 2579; https://doi.org/10.3390/w12092579
当研究室で2018年から研究を開始した世界自然遺産 知床の海岸に堆積する漂着ゴミの問題がメディアで取り上げられました。まだ研究の途上ですが、遺産内の核心地域の海岸におけるゴミの現状について映像とコメントを提供させていただきました。
NHK #知るトコ、知床チャンネル 第2回「海洋ゴミと知床」
地元のボランティアのみなさんが自治体や環境省の協力を得ながら清掃活動を行っていますが、そのゴミの量は膨大で、しかも漁具などの大型ごみ(漁網やロープ)が多いため、なかなか漂着ゴミの量は減りません。また、核心地域という一般の立ち入りが厳しく制限された地域でもあるため、ボランティア活動もなかなか簡単ではないというのが現状のようです。
当研究室では、UAV(ドローン)とSfM技術を用いて漂着ゴミと流木の堆積変化をモニタリングし、漂着ゴミの質量収支を解明したいと思っております。これにより、どの時期にどれだけのゴミを回収すれば、現状の改善に繋がるのかを提言できると考えます。
2020年はコロナ禍で調査が遅れ気味ですが、9月と11月に現地調査を行う予定です。