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9月 26

スイス氷河実習2026

北海道大学大学院環境科学院北極域研究センター低温科学研究所水産科学院等と連携して実施している「北極・南極学カリキュラム」のプログラムのひとつであるスイス氷河実習に今年も引率教員の1人として参加しました。9月22日から10月5日の2週間、11名の大学院生と共にスイス連邦工科大学で講義を受け、スイス各所で氷河と地形について学びました。今年は、参加者が日本、中国、ドイツ、フィンランドと多様な国籍をもつメンバーでした。天候に恵まれ、参加して下さった大学院生の皆さんには、スイスの大自然を満喫してくださったものと思っています。詳しくはこちらのページをご覧ください。

2週間の実習中に1日だけある自主研修日は、ツェルマットのマッターホルン山(標高4478m)の基部にあるヘルンリ小屋を訪ねました。このハイキングルートをを辿るのは今回で5回目ですが、歩くたびに発見があり、地形や地質に興味のある方にはとても楽しいルートです。ここは、アフリカ大陸の一部とされるアピュリア地塊が新生代古第三紀にヨーロッパに衝突した現場であり、ツェルマットからヘルンリ小屋に至るルート上では、衝突前に二つの大陸の間にあったテーチス海の海底に堆積した砂岩などの堆積岩からマントル起源の蛇紋岩が露出しています。ヘルンリ小屋より上のマッターホルンを作る岩石は、ダンブランシュナップと呼ばれ、アピュリア地塊がユーロッパの上に衝上した片麻岩です。ロープウェーの終点であるシュバルツゼーからヘルンリ小屋までの2時間あまりのハイキングルートを辿ると、これらの地質の変化と、岩石の硬さに応じた地形の変化が素晴らしく、今回も快晴の天気の中、気持ちの良いハイキングができました。

マッターホルン

下山路は、往路を辿らず、テーチス海の堆積物の上端からスタッフェルアルプに直接下るルートを辿りました。ザレた斜面をジグザグに下る単調なルートですが、マッターホルン北壁を背に、前方に広がるダンブランシュ、オーバーガーベルホルン、チナールロートホルン、ヴァイスホルンといったマッターホルンと同じアピュリア地塊起源の鋭峰を望む素晴らしいルートです。スタッフェルアルプ以降はツムット川をダムサイトで左岸に渡り、ツムット村に向かいます。ツムット村は小さな集落で、きっと昔のツェルマットはこんな感じだったのだろうと思わせる静かなところです。なぜか、私はこの周辺を歩くたびに、学位論文の頃に滞在したネパールのランタン村を思い出して懐かしい気持ちでいっぱいになります。

ツムット村からツェルマットへは、今回、”KULTURWEG”と呼ばれるルートを歩いてみました。通常のルートはツェルマットに向かって徐々に降っていくのですが、このルートはツェルマットまで谷の左岸を高巻くような水平道です。谷の上のほうからツェルマットを見下ろせる道なので、ぎっしりと建物が密集したツェルマットの町がよく見えます(写真)。こんな急峻な高峰に囲まれた深い谷底に立地するツェルマットは果たして安全な町なのだろうかと不安になるのは、実習中に発生したネパールの土石流災害の後だからでしょうか。

年々後退していくスイスの氷河とネパールで発生した想像を絶する土石流という二つの現象に、氷河を有する急峻な高山を有する国の今後について考えさせられる1日でした。長きにわたって氷河を原因とする災害に向き合い、多くの知見と技術を獲得したスイスの経験が、その他の国々の氷河災害に活用される日が1日も早く訪れるようにと願うばかりです。

ツエルマット